2020年8月、東京に米国発の体験型小売店舗「b8ta(ベータ)」がオープンした。「RaaS(Retail as a Service)」とも呼ばれる体験型小売店舗の取り組みは、顧客とのタッチポイント創出に悩むメーカーにとって注目に値する。ベータ・ジャパンの担当者に、体験型小売店舗の可能性について話を聞いた。
メーカーにとって、自社製品やサービスを実際に使用した顧客からのフィードバックが重要であることは言うまでもない。フィードバックの適切な分析は、既存製品における課題点の炙り出しや、マーケティング手法や販売チャネルの見直し、新製品開発のためのアイデア創出につながる可能性がある。
こうしたフィードバックを収集するための新たなチャネルが、2020年8月、東京都区内に誕生した。米国発の体験型小売店舗「b8ta(ベータ)」である。来店客は、リアル店舗内に展示している顧客企業の製品を実際に触り、体験できる。その過程で店内のAI(人工知能)カメラや店舗スタッフによるヒアリングで収集した来店客の定量・定性データを、(匿名化した上で)顧客企業に提供する。これまでに富士通やグーグル、カインズの他、多数のスタートアップが出展した。
「RaaS(Retail as a Service)」とも呼ばれるb8taのような体験型小売店舗の取り組みは、小売業だけでなく顧客とのタッチポイント創出に悩むメーカーにとっても注目に値するだろう。ベータ・ジャパン 合同会社 ゼネラルマネージャーの春山智博氏に、メーカーにとっての体験型小売店舗の可能性について話を聞いた。
b8taは2015年に米国シリコンバレーで創業し、現在は米国に約20店舗、ドバイに1店舗を構える。日本では2020年8月に有楽町店(東京都千代田区)と新宿店(東京都新宿区)をオープンした。今回、記者は有楽町店を訪問した。
有楽町店の店舗面積は約264.4m2(約80坪)。出展企業には1区画(縦40×横60cm)の製品展示用スペースが与えられる。料金は1区画で月額約30万円。出店期間は基本的に6カ月だが、顧客と相談した上で柔軟に変更できる。
時期によって異なるものの、有楽町店内には約70~80点の製品が展示されている。新宿店と合わせると展示品総数は約140~150点に及ぶという。来店客数は非公開だが、オープン当初は1日で約1000人が訪れたという。「仕事帰りに何度も足を運ぶヘビーリピーターもいる。滞在時間はまちまちだが、中には2時間も滞在している人もいる」(春山氏)。
製品を出展するメーカーから見て、b8taを利用する最大のメリットは、製品を実際に体験した顧客の定量・定性データを低コストで収集できる点にある。「通常であれば、銀座や日比谷、丸の内といった東京都内一等地へのアクセスが良好な有楽町への出店はとても難しい。店を出せば賃料だけでなく、従業員の人件費や教育コストなど多額のランニングコストがかかるからだ。しかし、b8taを利用すれば、有楽町という“一等地”に月額30万円という低コストで顧客とのタッチポイントを設置できる」(春山氏)。
定量データは店内天井部に設置したAIカメラで収集する。有楽町店には30台程度のAIカメラを設置しており、顧客の年齢や性別など大まかなデモグラフィックデータや店内の行動データなどを収集する。
この他、「商品の前を通り過ぎた人の数(インプレッション)」「商品の前に5秒以上立ち止まった人の数(ディスカバリー)」「商品の詳しい説明を店員から受けた人の数(デモ)」といったデータを取得できる。「中にはインプレッション数が1万に達する製品もある」(春山氏)という。なお、カメラの映像分析を行うAIシステムは、米国のb8ta本社内で開発している。
春山氏によると、来店客の属性は店舗ごとに異なる。有楽町店の場合は来店客全体の約7割を男性が占めており、特に30代後半のビジネスパーソンが最も多く訪れる。一方で、新宿店では来店客の7割が女性で、20~30代が多い。有楽町店では商談などビジネス目的で訪れる客も多いが、新宿では“ふらり”と立ち寄る人もいるという。こうした情報を参考に、顧客企業はより好ましい店舗を出店先に選べる。
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