米国AIレジレス企業と組んだ富士通、生体認証技術をリテールにどう生かすか:スマートリテール(1/3 ページ)
2020年12月、富士通がAIレジレスソリューションを展開する米国のZippinとの本格的な協業開始を発表した。ZippinのAIソリューションが持つ強みとは何か、また、富士通はレジレス分野でどのような市場展開を構想しているのか。富士通の担当者に話を聞いた。
2018年、アマゾンがAI(人工知能)やカメラなどを活用してレジ業務を無人化した「Amazon Go」の1号店をオープンして以来、「レジレス店舗」の知名度が急速に高まった。現在コンビニやスーパーなどの小売店舗では、人手不足の解消や業務効率化などが喫緊の課題として挙げられているが、レジレス店舗はこうした課題を解決し得る新しい技術、ソリューションの1つとしても注目されている。
こうした小売店舗向けのAIレジレスソリューションを展開する企業の1つがZippinである。同社は富士通と共同で、2020年2〜5月にかけて新川崎にあるローソンをレジレス化した「Lawson Go」の実証実験を実施し、同年12月には富士通と本格的に協業を開始すると発表した。2021年3月からは富士通を国内総代理店として、AIレジレスソリューションの販売に乗り出す。
ZippinのAIソリューションを導入した小売店舗では、来店客は目当ての商品を手に取り、そのまま退店するだけで商品決済が完了する。店内のAIカメラと陳列棚の重量センサーを組み合わせることで、商品と顧客情報を正確にひも付けして、決済を実行する仕組みだ。従来、顧客は入店時に店舗入り口の入場ゲートで、専用スマートフォンアプリを使って本人確認を済ませておく必要があったが、富士通が同社独自の顔認証技術と静脈認証技術を提供したことで、スマホを使わずに確認できるようになった。
ZippinのAIソリューションが持つ強みとは何か、また、富士通はレジレス分野でどのような市場展開を構想しているのか。富士通 リテールビジネス本部 DXビジネス事業部 シニアディレクターの石川裕美氏に話を聞いた。
重量センサーとの組み合わせでAI学習を効率化
MONOist レジレスソリューションを展開する企業は多くありますが、その中で協業先にZippinを選んだ理由は何でしょうか。
石川裕美氏(以下、石川氏) もともとZippinは、米国シリコンバレーの中でも無人販売に関して非常に多くの知見を持つ人材が集まる企業だという認識があった。加えて、Lawson Goの共同実験を通じて、他社よりも技術的、コスト的な面で秀でている点があると確信したので本格的な協業開始を決めた。Zippinの技術ライセンスは非常にオープンな仕様だったので、当社の生体認証技術との連携もスムーズだった。共同でプロジェクトを進める上では、非常に心強いパートナーだ。
MONOist 具体的にはどのような優位点があったのですか。
石川氏 ZippinのAIレジレスソリューションは、エッジAIカメラと重量センサーを併用することで顧客の行動を高精度で認識する仕組みだ。重量センサーは顧客が商品を手に取った際の商品の重さの変化を検知する。このため、カメラだけで商品の状態を全てカバーする必要が無く、その分店内に設置するカメラの台数を減らしてコストを低減できる。
また、重量センサーとの併用で、商品の情報と状態をAIが学習するまでにかかる時間と労力を削減する効果も期待できる。他社の技術では、AIに学習させるために大量の商品画像データが必要になる。一方で、Zippinの技術では、画像を1、2枚読み込ませたカメラを棚に置いた状態で、顧客が購買活動を30時間程度続けると、カメラだけで商品を認識できるレベルにまで精度が高まる。カメラの学習が完了するまでは、重量センサーで商品の減った個数を検知して精度を補完する。
これらに加えて、カメラや重量センサーなどの機器類が、Zippinの独自開発ではなく、一般的なCCDカメラなどの汎用機器で構成されている点も魅力的だった。このため、他社のソリューションよりもさらに安価に導入できる。
MONOist 目安として、どの程度のカメラ台数があればよいのでしょうか。
石川氏 Lawson Goの実証実験開始時点では、約23m2の店舗面積に対して、28台のカメラを設置した。
ただ、最近Zippinの技術アップデートが入ったため、カメラ台数を約3分の1にまで減らせるようになった。これまでは商品を認識する「プロダクト機能」と、商品の「トラッキング機能」、人物の行動を分析する「ジェスチャー機能」の3機能を実現するために、3台のカメラを別々に使っていた。これが、アップデート後は単一のカメラを通じてクラウド上で分析できるようになったので、今後は同程度の店舗面積であれば、9〜10台程度のカメラで済むのではないかと考えている。
カメラの台数を減らすことで、顧客が購買時に持つ心的障壁も下げられるだろう。Lawson Goは当社施設内でオープンしたので、来店客はテクノロジーに理解がある当社社員がほとんどだった。そのため、実証実験の中で「カメラは気にならない」という声が多かったが、やはり一般展開を視野に入れると意識すべき点かと思う。
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