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危機を生かせた企業の勝因は? 必要な3つのフェーズのアプロ―チとはポストコロナの製造業IT戦略(2)(2/2 ページ)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がもたらした「withコロナ」のニューノーマル時代において、製造業にどのような変革が必要となるのかを考える本連載。第2回となる今回は、COVID-19のような危機に際して、企業がどのようなアプローチで対策を進めていくべきかについて解説します。

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危機に対する3ステップアプローチ

 災害や疫病、テロ、戦争、政策や規制の変更など、それによる影響内容や範囲を事前に予測し、100%の対策を講じることはかなり難しいことです。そこで、問題が発生した場合に、素早く明確な対応策と見通しを提示し、パニックや混乱を抑えることがカギになります。問題の影響範囲や期間を見極め、新たな安定した需給状態を設定し、速やかに移行する必要があるのです。そのためには、3つのフェーズを視野に入れて、短期/中期的な対応と長期的な視点で、対応策を組み合わせることが必要です。

  • フェーズ1:ザ・ナウ(サバイバル)
  • フェーズ2:ザ・ネクスト(解決)
  • フェーズ3:ニューノーマル(永遠に不確実なノーマル)
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危機に対する3つのアプローチ(クリックで拡大)出典:NTTデータ グローバルソリューションズ

フェーズ1:ザ・ナウ(サバイバル)

 フェーズ1の「ザ・ナウ」は90日前後までの短期対応を示します。初期ショック状態の直後は、混乱の増幅をさけるために、一刻も早く最低限のオペレーションが再開できるように対応することが求められます。言葉通りに生き残るためのアクションをとるフェーズです。

 さまざまな緊急対応が必要になりましたが、より広範囲に影響を与えたのがリモート化ではないでしょうか。COVID-19が発生した時点では、ほとんどのビジネスにおいてリモートで行う体制の準備ができているとはいいがたい状況でした。しかし、多くの企業において、緊急事態宣言により、リモートでの事業運営を余儀なくされました。

 多くの企業が短期間でテレワークができるような仕組みを作り、バーチャルワークプレース、セキュリティの確保、オンライン会議システム、電子サインシステムなどのアクションを速やかに実行してきました。こうした取り組みがサバイバルの例として考えられます。

 サバイバルを進める中で同時に欠かせないのはコスト削減です。コストを削減することで、ビジネスリカバリーのための資金を確保する必要があります。前回紹介したCOVID-19における8つの特徴としても「企業は大量のキャッシュをため込んでいる」ということを紹介しました。戦略的プロジェクトも再度レビューして、優先度によって継続するか保留するかを決める必要があります。また、長期的なリカバリーのために必要なプロジェクトは選択していきます。

フェーズ2:ザ・ネクスト(解決)

 フェーズ2の「ザ・ネクスト」は90日から9カ月(270日)までの中期的観点から、レジリエンス(しなやかな強さ)を鍛えるアクションがメインになります。現在はちょうどこのフェーズ2という段階に多くの企業が入っていると考えます。

 経済活動が再開すると徐々に回復モードに入り、需要が回復するのが見えてきます。顧客からの需要は急に広がるケースも多く、それに対応するためにサプライチェーンと製造をEnd to Endでつなぎ、プロセスの間で生まれるラグをできる限り縮める必要があります。オペレーションの安定化、未来に対するレディネス(これから起こること、取り組むことなどに対して準備ができていること)、レジリエンス(危機の影響を受け混乱した状態から可能な限り短期間で安定して立ち直る力)が解決フェーズの中核になります。

 素早い初期対応がパンデミック初期の最適な対応方法でしたが、この先は中長期観点からのレジリエンスが優先課題になります。初期の臨時的対応策、部分的な解決策だけの対応を長期間続けるには限界があり、急いで導入した解決策に対して、長期的、戦略的な観点からの安定化やソリューション補強が必要となります。例えば、サバイバルフェーズにはリモート作業を行える技術を取り急ぎ導入することが求められました。しかし、解決フェーズになると、導入済のテクノロジーを使用するユーザー数、トランザクションの数が増えてきます。その中でさらに安定性が求められるようになり、緊急対応とは違った観点での取り組みが必要になります。そういう意味ではさまざまな状況に対応ができるようなスケーラビリティを確保することが大切だといえるでしょう。

フェーズ3:ニューノーマル(永遠に不確実なノーマル)

 フェーズ3の「ニューノーマル」は9カ月以上の長期的な視点から対応策を検討します。ビジネスオペレーションが安定的に動くようになったら、これからのフォーカスはサバイバルモードから一転し、ビジネス成長のためにシフトする必要があります。

 ビジネスが初期ショックから抜け出すことができ、リカバリーが本格的に始まると、次はニューノーマル時代の競争力を考えていかなければなりません。ニューノーマルはパンデミックの影響を大きく受けて、予測から大きく外れた状況に対する工夫が必要とされます。

 なお、現段階ではまだCOVID-19による危機は続いており、いつ終息するかも見えない状況です。ビジネスの見通しも明るくはなく、不確実性の高い状態が続きます。しかし、だからこそ、ビジネス課題を見据え前に進むしかない状況であるともいえるかもしれません。

テクノロジーを使いこなすのかそうでないのか

 COVID-19は図らずもブラックスワンイベント(事前にほとんど予測できないが起きた時の衝撃が大きい事象)への備えの弱さを多くの企業で露呈させました。最悪のシナリオが発生した時、企業によって「テクノロジー」をどれほど活用できていたのか、いなかったのかが明らかになったといえるでしょう。

 例えば、オンラインビデオ会議システムは十数年前から存在していた技術です。しかし、多くの企業においては、ようやくCOVID-19によって活用できるようになりました。COVID-19がなかったら、まだ利用されていない可能性も高いでしょう。そう考えると、COVID-19は企業を最新の姿に転換させる、今までないチャンスと見ることもできるかもしれません。

 このテクノロジーの活用という意味で、デジタルトランスフォーメーションがその長期的対応策として注目されています。「ニューノーマルとデジタルのトランスフォーメーション」については、次回さらに深く解説したいと思います。

≫「ポストコロナの製造業IT戦略」のバックナンバー

筆者紹介

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島田祥元(しまだ あきもと)
NTTデータ グローバルソリューションズ
ビジネスイノベーション推進部 世界戦略室 室長

 欧米の先進国での経験を生かし、先端トレンドソリューションを日本で活用可能な視点で実践的に適応、支援を進めている。米国(7年)、英国(2年)でコンサルタントとして活動。外資系コンサルティング企業を経て、現職。米国、欧州、アジア、南米など多数の地域で、プログラムマネジメント、海外システム導入、オフショアチームマネジメント、グローバルAMO、買収フィージビリティスタディー・買収後業務・システムインテグレーション、ソフトウェアソリューション製品開発など、幅広い案件を手掛ける。


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