住宅街での「日本初」ロボット走行実験、パナが目指す配送サービスの在り方とは:モビリティサービス(2/2 ページ)
パナソニックは2020年11月25日から同年12月24日にかけて、小型自動走行ロボットを用いた住宅街向け配送サービスの実現に向けた実証実験を「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」で実施中だ。自動走行ロボットによる走行実験を実際の住宅街内で行うのは「日本初」(パナソニック)。
「生き物感」が垣間見えるデザイン
今回の実証実験で使用する自動走行ロボットは、長さ1150×幅650×高さ1150mmで車両重量は120kg。最大速度は時速6kmだが、実証実験中は最大でも時速4kmに制限して走行する。雨天時でも、15mmまでの雨量であれば走行可能。積載重量は最大30kgで、車体側面のドアを開閉して荷物を収納する。定格出力は0.3kW。登坂性能は約10度で、段差は4cmまで乗り越えられる。バッテリーがフル充電の場合、走行可能時間は約3時間。残バッテリー量は遠隔で確認し、一定量を下回った場合は充電スポットへと手動運転で向かう。なお、ロボット名は決まっておらず、「将来的に、展開するサービスの内容に応じてふさわしい名前を付ける予定だ」(パナソニックの担当者)という。
荷物搭載スペースのあるロボット上部には、3次元LiDAR(ライダー:Light Detection and Ranging)が1台と、2次元LiDARが2台、遠隔監視用のカメラが4台、GPSが搭載されている。走行方式はSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)で、自己位置を推定しながら自律走行する。ただし、横断歩道を渡る際など特定の状況下や、自律走行での障害物回避が困難な場合は、ロボットを遠隔で監視する「遠隔管制センター」のオペレーターによる手動操作に切り替えて走行する仕組みだ。自動走行時は機体上部にあるライトが黄緑色に、遠隔操作時は青色に点灯して操作状況を伝える。機体付近に歩行者がいる場合は動作を停止し、発進する旨を伝えるガイド音声などを流す。
車輪などが搭載されたロボット下部は、PiiMoの走行部を転用した。転用にあたって、レーザーセンサーなどは取り外している。前輪はオムニホイールを採用しており、360度の全方位移動が可能だ。
また、ロボットの動作に応じて、正面のディスプレイには「表情」を表示する仕組みも取り入れた。例えば、機体発進時や走行時は眉が上がった「やる気のある表情」になり、停止時は眉が少し下がった「落ち着いた表情」になる。この他、右左折時には進行方向に眉を下げるなど、ロボットの行動を周囲に分かりやすく伝える。パナソニック マニュファクチュアリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 統括の安藤健氏は「地域の中で愛着を持って受け入れてもらえるようなロボット開発を目指した。『生き物感』が垣間見えるようなデザインに仕上げた」と開発コンセプトを説明した。
遠隔監視で自律走行の安全を補完
ロボットの状況は遠隔管制センターで専門のオペレーターが常にモニタリングして、必要に応じて自律走行から遠隔操作に切り替えて対応する。ロボットに搭載したカメラやLiDARで取得したデータをLTE通信で同センターに送信し、モニター上に表示する。万が一、ロボットに異常があればその旨がモニター上で表示される。また、オペレーター自身も映像やデータの数値を基に、ロボットに異常が発生していないか目視で確認する。遠隔操作には、PCゲームなどに用いるコントローラーを使う。
オペレーターを補助するため、AI(人工知能)の活用も検討する。歩行者の行動を認識してリスク分析を行うAIや、歩道や車道など安全に走行できる場所を自動検知するAI、接近車両を強調して伝えるAIなどを導入して、オペレーターによる安全な遠隔操作をサポートする予定だ。
また、ロボットに対するサイバー攻撃を防ぐため、不正アクセスの予兆を検知する独自アルゴリズムを用いたセキュリティ対策も講じている。なお、同アルゴリズムを用いたセキュリティソリューションは、今回の実証実験だけでなく、工場のセキュリティなど幅広い用途での活躍が見込めるため、多分野での展開を考えているという。
パナソニック モビリティソリューションズ担当 参与 村瀬恭通氏は、今回取り組む一連の実証実験を通じて「単なるサービスではなく、街に住む人にとっての『共通インフラ』を構築したいと考えている。Fujisawa SSTには老若男女さまざまな居住者が2000人もおり、さらに、戸建て住宅や集合住宅、商業施設、健康福祉施設、物流センターなどの建物がある。これまで当社は自動走行ロボットの実験を自社構内で行ってきたが、それとは環境が異なる『本当の街』での実証実験からは学ぶことが多い。当社が過去100年にわたり、家電開発を通じて蓄積してきた『生活の現場』に関する知見を生かし、自治体や住民、施設で働く人々と共にサービスの在り方を考えていきたい」と意気込みを語った。
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