製造業DXに必要なクラウドアプリケーション活用の3つの条件:製造業に必要なDX戦略とは(3)(2/2 ページ)
製造業でも「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注目が集まる中、本連載では、このDXに製造業がどのように取り組めばよいか、その戦略について分かりやすく紹介している。第3回は「クラウドアプリケーションの活用戦略」について解説する。
【条件2】常に最新プログラム運用
製造業のDXに必須となるクラウドアプリケーションの2つ目の条件は「常に最新のプログラム運用が可能である」という点です。
オンプレミス製品の場合は、ベンダー側がソフトウェアのバージョンアップを行う度に、GAP要件対応として行ったアドオン開発(ソースコードレベルの変更&追加)で生まれたユーザー単位の固有の機能に対する追加開発が必要になり、膨大な保守コストが発生するというデメリットがありました。
クラウドアプリケーションの場合は、クラウド側に置いたアプリケーションを更新すれば常に最新のプログラムが提供可能です。そうすると「個々のユーザーニーズに対応した機能が搭載されないのではないか」と考えるかもしれませんが、これを回避するために必須の機能が次の条件として紹介する「Low-code開発(ローコード開発)」です。
【条件3】Low-code開発環境
Salesforce.comや、AWS、Googleを始めとしたプラットフォーマーはローコード開発環境を積極的に提供しています。ローコード開発とは、従来プログラマーなどの専門技術者がコンピュータ言語(C言♯、Java、Visual Basicなど)を使用して開発する必要があったプログラムを、複雑なプログラミングなしに開発できるようにしたプラットフォームのことを示します。主にクリックだけで新たな機能追加などが可能となります。ローコード開発は新しい技術で日々進化しています。
ERP(Enterprise Resource Planning)システムをはじめ多くの業務管理アプリケーションでは、機能変更や追加(最も簡単なものは帳票書式変更でしょうか)が必要になるものがほとんどです。しかし、クラウドアプリケーションとして常に最新のバージョンを提供するということを考えると、個々の細かいニーズに応えたパッケージシステムを構築することは不可能で、こうしたニーズに対応するには個別の開発が必要になります。ただ、これをベンダーが対応するのは難しいため、ユーザー側が簡単に個別開発をできるようにしました。ここで活躍するのがローコード開発です。ローコード開発は、オリジナルのプログラムを変更せずに、機能変更や追加が簡単に実現できることが最大の利点であり、「条件2:常に最新プログラム運用」を実現するコア技術だといえます。
おまけ情報
- 現在、国内市場で提供されているクラウドERPは、データセンターに置いたシステムを月額課金ベースで提供している製品が大半です。初期投資や運用コストを削減するメリットはありますが、今回紹介している必須条件2と3には合致していないケースがほとんどです
- ローコード開発に対し、No-code開発(ノーコード開発)という手法もありますが、適用範囲がかなり限られるので、現時点の技術レベルでは、業務アプリケーションのアドオン開発の代替にはならないと判断しています。
- ローコード開発はそれなりの適用範囲がありますが、ERPパッケージなどパッケージ業務アプリケーション導入に際しては、まずは「業務をシステムにできる限り合わせる」という基本的な努力が必要であることはいうまでもありません
これからのシステム構築は、基幹システムであるERPだけではなく、周辺アプリケーションをいかに効率よく選択し、運用できるかにかかっているといえます。今までのようにシステム企画から構築まで数年を費やすようなスピード感では、競合関係が厳しくなる市場環境では通用しなくなることは明白です。企業としての優位性を高めるには「SaaS+クラウドアプリケーション」を前提に考えることが重要です。同一プラットフォームにある業務アプリケーションを組み合わせることにより、短期間に効率よくシステムの構築や拡張を図ることが出来ます。
現在は各プラットフォーマーが提供する製造関連のアプリケーションはまだまだ選択肢が限られています。ただ、SAPとオラクルという2大ERPベンダーが既にオンプレミスからクラウドへとビジネスモデルの中心を移行させることを表明しており、それに伴い、これらのシステムと連携する製造関連業務アプリケーションのクラウド化も本格化すると筆者は推測しています。そして、その時はすぐそこまで来ていると考えます。
筆者紹介
栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役
【経歴】
1995年 マレーシア・クアラルンプールにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。その後、タイ・バンコク、日本・東京、中国・天津、上海に現地法人を設立。製造業向けERP「ProductionMaster」と、MES「InventoryMaster」の開発と販売を行う。
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asiaを設立。
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却し、パナソニックFSインテグレーションシステムズの代表取締役に就任。
2020年 クラウドERPのリーディングカンパニーRootstockの日本法人であるRootstock Japan株式会社の代表取締役就任。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 製造業のDXでも必須となるプラットフォーム戦略、その利点とは?
製造業でも「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注目が集まる中、本連載では、このDXに製造業がどのように取り組めばよいか、その戦略について分かりやすく紹介している。第2回の今回は「プラットフォーム戦略」について紹介する。 - 製造業がDXを進める前に考えるべき前提条件と3つの戦略
製造業にとっても重要になる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に注目が集まっている。本連載では、このDXに製造業がどのように取り組めばよいか、その戦略について分かりやすく紹介する。第1回の今回は、DXを進める中で必要になる前提条件と3つの戦略の概要について紹介する。 - いまさら聞けない「製造業のDX」
デジタル技術の進歩により現在大きな注目を集めている「DX」。このDXがどういうことで、製造業にとってどういう意味があるのかを5分で分かるように簡単に分かりやすく説明します。 - 製造業が「DX」を推進するための3つのステージ、そのポイントとは?
製造業のデジタル変革(DX)への取り組みが広がりを見せる中、実際に成果を生み出している企業は一部だ。日本の製造業がDXに取り組む中での課題は何なのだろうか。製造業のDXに幅広く携わり、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)のエバンジェリストを務める他2019年12月には著書「デジタルファースト・ソサエティ」を出版した東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター 参事の福本勲氏に話を聞いた。 - データを世界の共通言語に、リアルタイムで製品収益を見える化する安川電機のDX
「データを世界の共通言語に」をスローガンとし「YDX(YASKAWA digital transformation)」として独自のデジタル変革(DX)を進めているのが、産業用ロボットやモーターなどメカトロニクスの大手企業である安川電機である。安川電機 代表取締役社長の小笠原浩氏に「YDX」の狙いについて話を聞いた。 - 「モノ+データ」の新たな製造業へ、成果創出のポイントは「データ専門会社」
製造業のデジタル変革は加速する一方で2020年もさらに拍車が掛かることが予想される。その中で立ち遅れが目立っていたデジタル化による「モノからコトへ」の新たなサービスビジネス創出がいよいよ形になってきそうだ。ポイントは「専門の新会社設立」だ。 - 製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか
製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。