物流業務を5倍に高速化、上下に動く3次元走行AGV開発メーカーの「真の強み」:サプライチェーン改革(2/2 ページ)
床面の移動だけでなく「上下」の3次元移動を実現する、物流倉庫向けAGVを開発した企業がある。AGVソリューションの開発、販売を手掛けるフランスのベンチャー企業、Exotecだ。「Skypod」と名付けられたこのAGVは、現在、欧州を中心に導入件数を広げており、日本の国内企業でもファーストリテイリングが自社倉庫に導入したと報じられている。3次元移動AGVによって物流倉庫の自動化はどのように変わるのか、また、3次元移動をどのようにして実現したのか。Exotec CEOに話を聞いた。
ラック・アンド・ピニオン方式の機構で昇降を実現
Skypodの耐荷重は約30kg、昇降可能高度はラックの高さに合わせて12mまで対応する。1時間当たり約500個ものビンをラックから取り出すことが可能で、「顧客の注文を確認してから、ピッカーが商品を箱詰めするまで、最速で5分以内に終わらせることができる」(ムーラン氏)という。
走行方式にはLiDAR(ライダー、Light Detection and Ranging)を採用しており、これによって柔軟性の高い倉庫内走行が実現できたという。また、同じくLiDARを活用することで、機体周辺の作業員を検出して衝突事故を防止する安全機構も設計、搭載した。「安全機構をはじめ、Skypodは人間との協働性を重視した設計を幾つか取り入れている。特に、倉庫内で働く従業員が多い日本の物流業界では、こうした配慮が重要になると考えている」(ムーラン氏)。
Skypodの最大の特徴は、何といっても「前後、左右、上下」という3次元移動を実現した点にある。
3次元移動はラック・アンド・ピニオン方式の走行機構を採用することで実現した。Skypodの昇降機構部分に専用のギアを搭載し、ラックの支柱部分にギアの受け部分を用意する。両者がかみ合うことで、Skypodはラック間の昇降が自在に行える。ギア部分を含めた昇降機構全般に関する独自の工夫点については「非公開だ」(ムーラン氏)とする。
従来のAGVには棚上方のビンの取り出し作業に対応しておらず、従業員が高所のビンを取り出してAGVに手作業で載せなければならないものもあった。しかし、Skypodはこうした一連の取り出し、搬送作業を全て自動化する。ラックの数は倉庫のサイズに応じて柔軟に変更できる上、拡張性が高く増設などのスケールも容易だという。
Exotecの「本当の強み」は2つのソフトウェア
一方で、ムーラン氏は「実のところ、ラック・アンド・ピニオン方式に基づく3次元走行機構を開発すること自体は、他のAGVメーカーにも可能かもしれない」とも補足した。その上で、Skypodが持つ「独自の強み」は、実は自社開発のソフトウェアにこそあるのだと強調する。
「AGVなどのロボット開発においては、ハードウェアの開発ももちろん重要だが、実際の性能を決めるのがソフトウェアであることも多い。ソフトウェアの仕様次第でロボットが行えることが全く変わるからだ」(ムーラン氏)
Exotecが独自開発したソフトウェアは2種類ある。1つはSkypodに搭載した、ギアとラックの受け部分を適切なタイミングでかみ合わせるための動作制御アルゴリズムだ。「昇降用の走行機構を開発できても、高品質かつ高精度の制御ソフトウェアがなければ十分な速度で昇り降りができない」(ムーラン氏)。
もう1つは「A-STAR」と名付けられた、複数台のSkypodと従業員を統合的に管理するためのソフトウェアだ。顧客から受け取った個別の注文と、Skypodやピッカーの稼働状況全体を総合的に判断して、「どの商品をどのラックから取り出すか」「どのロボットを向かわせるべきか」「どのピッカーが、どの作業を行うべきか」について指示を出す。各ジョブに、Skypodや従業員のキャパシティを最適化させることで、最も効率的に顧客への商品発送が行える体制づくりを実現する。
自動化システム普及のカギはやはりコスト
ムーラン氏は物流倉庫内における自動化について、世界中の現状を次のように概観する。
「米国、欧州、そして日本をはじめとして自動化のトレンドが生じつつある地域も多くある、しかし、全世界的に倉庫内作業はまだまだ人手によるものが支配的で、自動化の取り組みは限定的だ。Exoteccの創業時、そもそも自動化のトレンドは下火になりつつあった。理由は投資コストと回収にかかる時間の長さだ。私が見た中では、回収に8年かかるケースもあった。これを鑑みると倉庫内作業の『完全自動化』は現実的にほとんど不可能だろう。逆に言うと、自動化普及にはシステムの低廉化が必須ということになる」(ムーラン氏)。このためExotecでは、顧客の倉庫内作業全てをSkypodなどで一気に自動化するのではなく、顧客の物流プロセスやシステムごとに最適な形にモジュール化して販売する形式をとっている。
「現時点では、幾つかの業務では従業員の方がロボットよりも優秀だ。当社では、従業員とロボットの強みを相互に生かしたコラボレーションを実現することが業務効率化にとって重要だと考えている。そうした考えに基づき、エルゴノミクスの観点から人間との協働を容易にするデザインのロボット、物流システムの開発も進めている」(ムーラン氏)
Exotecは今後、日本国内で事業展開を推進する計画がある。ムーラン氏は日本の倉庫内自動化市場について「産業界ではAGVなどを用いたロボティクス化を強く求める傾向が、近年、強く生じている。この流れは数年にわたり続くと見ている。しかし、そうしたトレンドは産業界の中でも工場やプラントなどに限定されており、物流倉庫ではまだまだこれから盛り上がっていく、という状況だろう」と概観する。
また、Exotecは、2020年末に新たなピッキングステーションを用いた実証実験をフランスで予定しているという。
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