「OPC UA for Robotics Part2」の方向性とロボットの今後:いまさら聞けない「OPC UA for Robotics」(3)(2/2 ページ)
産業機器のインタフェース共通化を目指すOPC UAのコンパニオン仕様の1つに、産業用ロボットを対象とする「OPC UA for Robotics」がある。本連載では「OPC UA for Roboticsとは何か、何ができるのか」について、想定される活用シーンとともに紹介している。第3回の今回は「OPC UA for Robotics」の現在の状況と今後の展開について紹介する。
Part2でもできないこと
これらの方向性でPart2が確定し、それが各メーカーの産業用ロボットに実装されたとしても、引き続きメーカー独自のインタフェースを使う必要性は残り続ける。基本的にメーカー各社が互いに異なる性能や機能で競い合う限り、そのインタフェースが完全に共通化されることはあり得ないからだ。メーカー独自仕様のインタフェースが残り続ける主な領域には、以下の2点が挙げられる。
1つ目は、ロボットプログラムの作成である。Part2では、ITネットワークからロボットプログラムを送受信したり、ロボットコントローラー内のプログラムをロード・アンロードしたりする操作が可能になる見込みである。しかし、そのロボットプログラムはメーカーごとに異なるロボット言語で記述されているのが現状であり、Part2によってロボット言語までが共通化されるわけではない。従って、ロボット位置の教示や基本的な動作順序は、各ロボットメーカー独自のプログラミングペンダントなどのユーザーインタフェースを使い、独自のロボット言語でそれぞれプログラミングする必要がある。
最近では国際標準のPLC言語に対応した機能ライブラリを提供している産業用ロボットメーカーも増えてきているため、従来のロボット言語からの変換が1対1で可能となれば、ロボットプログラムの共通化も現実味を帯びてくるかもしれない。しかし、現実的には各社のロボット言語の命令が1対1で対応するとは限らず、利用可能な機能や書式もそれぞれ異なることから、当面は複数のロボット言語が並列する状況が続くだろう。
2つ目は、OTネットワーク以下への対応である。図1は将来の工場ネットワークをイメージ化したもので、赤い点線で囲った部分それぞれが、1個のモーションデバイス(産業用ロボットや各種装置)に対応する。
図1 OPC UA for Robotics Part1、Part2は、ロボットコントローラーとITネットワークをつなぐ役割を担う(クリックで拡大)出典:OPC Foundation「OPC Foundation extends OPC UA including TSN down to field level」の図を筆者が編集
Part2も、図中の両矢印(1)(2)で示したクラウドやERP(Enterprise Resources Planning)、MES(製造実行システム)などとモーションデバイスをつなぐチャンネルとしての使用(垂直統合)を想定している。一方で、装置間の連携と協調(水平統合)のためのOTネットワーク(3)や、装置コントローラー配下のフィールドネットワーク(4)は、まだOPC UAの対象外である。
(3)は、加工の開始・終了や物品の受け渡しのようなイベント信号をリアルタイムに装置間でやりとりするチャンネルである。(4)は、ミリ秒/サブミリ秒オーダで周期的にロボットの関節角度指令を送信したり、実際の関節角度やセンサー信号を受信したりするチャンネルである。システムの性能を上げようとすればするほど(3)や(4)の厳密なリアルタイム性・同期性が要求されるようになるため、既に標準化されている各種フィールドネットワークの中でも特にリアルタイム性に優れた高機能なもの(EtherCATなど)、あるいはメーカー独自の特殊仕様のフィールドバスが使われているのが現状である。一方、OPC UAがベースとしている標準のインターネット技術では、これに十分対応することができない。OPC UA for Roboticsが(3)や(4)の領域に踏み込めていない技術的な理由の1つであろう。
このOTネットワークへのOPC UA対応を進めようとしているのが、OPC FoundationのField Level Communications(FLC)イニシアチブである(※4)。詳細は本連載の範囲外としたいが、FLCイニシアチブはTime Sensitive Networking(TSN)技術を取り入れ、リアルタイム性と相互接続性を両立したOTネットワーク以下の共通仕様策定を志向している。その議論がまとまれば、産業用ロボットのOTネットワーク以下をつなぐ手段としての活用も視野に入ってくることになる。しかし、その基礎となるTSN技術自体も未確定な要素を残していることから、FLCの共通仕様策定までには多少の年月を要すると予想されている。また、特にフィールドネットワークには既に多くの規格が並列しており、特性や性能もさまざまである。これらの性能を落とさずに相互運用性を高めるような技術・仕様が果たして実現できるのか、注目したいところだ。
(※4)関連記事:主要規格と続々連携、ハノーバーメッセを席巻したOPC UAのカギは“間をつなぐ”
まとめ
OPC UA for RoboticsのPart2は、ITネットワークとロボットシステムの双方向の連携を可能にする方向で検討が進められている。OPC UA for Roboticsの拡張や対応ロボットの普及はまだこれからだが、ロボットシステムをITネットワークと接続することにより何ができるようになるか、ロボットユーザー・ロボットメーカー双方の創造力が問われることになる。一方、OTネットワーク以下は依然としてOPC UA for Roboticsの対象外である。OPC FoundationのFLCイニシアチブの取り組みはあるものの、OTネットワーク以下への拡張には時間を要するだろう。
最後に
OPC UA for Roboticsはあくまでインタフェース技術の1つであり、多種多様なロボットを統一的な枠組みで接続し相互運用できるようにするための手段として整備が進められている。ただし、OPC UA for Roboticsは、全ての産業用ロボットインタフェースを共通化するものではなく、共通仕様に含まれないメーカー独自のインタフェースやロボット言語を排除するものでもない。むしろ共通仕様に含まれない部分こそ、他メーカーと異なる価値を提供できる差別化要素になり得る。
共通インタフェースの議論では、業界内で協調し共通化できる部分と競い合う部分を適宜分類し、メーカーとユーザー双方が得られる便益が最大となるような在り方が模索されるべきである。そのような議論は特定メーカーや特定ユーザーだけではほぼ不可能で、だからこそVDMAが主導し多数の関係機関が参画してまとめられている「OPC UA for Robotics」の価値は大きい。その先には、仕様や規格による囲い込みではなく、ロボットメーカーや機種毎の特徴・差別化要素が一層鮮明になり、ユーザーが多様な選択肢から用途に最適なロボットを自由に選ぶことができる世界を期待したい(図2)。
≫連載「いまさら聞けない『OPC UA for Robotics』入門」の目次
著者紹介:
岸 泰生(きし やすお)
ベッコフオートメーション ソリューション・アプリケーション・エンジニア
名古屋大学大学院工学研究科を卒業後、産業用メカトロ機器メーカーの開発研究所に約15年間勤務し、ロボット技術や制御技術の研究開発に従事する。2018年にドイツの制御装置メーカーであるベッコフオートメーション株式会社に入社し、同社製品の応用技術を担当。同社技術を通して日本のモノづくりの生産性向上に努めている。
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