全世界で逆風が吹くメイカースペースに必要なもの:ポスト・メイカームーブメント(2)(5/5 ページ)
「メイカームーブメント」の真っただ中、世界中にメイカースペースが誕生した。だが、この10年、採算がとれずに閉鎖を余儀なくされた施設も少なくない。連載第2回では、メイカースペースの歩みを振り返りつつ、TechShopとファブラボの存在に着目し、“2020年代に生き残るメイカースペースの在り方”を探る。
特定領域にフォーカスした「ファブラボ品川」
地域課題という切り口ではないが、特定の領域にフォーカスしてデジタルファブリケーションを活用する取り組みを後押しするファブラボがある。
東京・品川にある「ファブラボ品川」は、作業療法士が中心となり3Dプリンタなどを活用して、リハビリ患者らが個々に必要とする自助具を開発。それらをオープンソースデータとして公開する活動を推進している。
既存の自助具はこれまで外注したり、加工技術を持つ専門の職人に依頼したりする必要があったが、3Dプリンタの登場により、必要なものを、必要な人に、必要な数だけ、極めて低コストに提供できるようになった。
ファブラボ品川の取り組みは、スタートアップのビジネスに比べれば、成長性は大きくないかもしれない。しかし、今ある地域の課題を解決できるだけでなく、自らモノづくりを通じてアクションを起こせる人材を育成できるなど、社会的な意義は非常に高い。こうした活動を実行する場として、ファブラボのような地域に根差したメイカースペースは有効であり、自治体としても活動を支援する意味は大いにあるだろう。
メイカースペースを運営する側としては、行政を動かすためのアクションも必要となる。
「モノづくりが好きな人たちだけでなく、行政とも握手できるスキルがファブラボの運営者にも求められる。作りたいモノを作って披露するだけでは彼らは動かない。社会の中で、自分たちが何を目指しているのかを明確に伝えることが重要だ」(田中氏)
規模は異なるが都市型のTechShop、地域密着型のファブラボのいずれも中心にあるのは個人とコミュニティーの力であり、その価値は2010年代に十分証明された。しかし、継続するには規模に応じた戦略が重要だ。ファブラボのような地域に根付いたメイカースペースも、TechShopのような都市型の大規模メイカースペースも必要なのは、自ら手を動かしながらも、手を動かそうとしている人や、何かにちゅうちょしている人の背中を正しく押せる人間だ。 (次回に続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「ひとりメーカー」Bsizeが生き残ったシンプルな理由
2010年代に起きた「メイカームーブメント」を振り返るとともに、2020年代に始まる「ポスト・メイカームーブメント」の鍵となる企業や技術、コミュニティーを紹介する連載。ハードウェアの量産や経営に苦労するスタートアップがいる中、モノを作り続け、成長につなげることができているのはなぜか? 日本のメイカームーブメントの先駆けとして知られ、当時「ひとりメーカー」としてメディアにも大きく取り上げられた、Bsizeの八木啓太氏にお話を伺った。 - 大企業からスタートアップ、芸術家まで駆け込むDMM.make AKIBAのモノづくり哲学
さまざまなモノづくりを支援するDMM.make AKIBAの運営に携わる人たちにスポットを当て、世の中にないものを生み出そうとする現場の最前線を追う。第1回は、機材の運用から試作相談、受託開発までサポートするテックスタッフたちを紹介する。 - 2019年の深センから見た、ハードウェアスタートアップシーンの今
世界中から多くのスタートアップ企業が集まる中国・深セン。「アジアのシリコンバレー」とも称されるこの地に拠点を置くスタートアップと、彼らを支援するベンチャーキャピタル(VC)、そして消費者視点で見た深センの街並みを取材した。 - 国内企業とスタートアップのマッチングを加速、日本版「HAX」が目指すもの
住友商事とSCSKは、中国と米国を拠点とするアクセラレーションプログラム「HAX(ハックス)」を運営するSOSV Investmentsと提携し、日本国内のハードウェアスタートアップを対象としたアクセラレーションプログラム「HAX Tokyo(ハックス トウキョウ)」に参加するスタートアップを2019年8月31日まで募集中だ。 - ファブラボ渋谷はこうして生まれた――日本に根付くプラグイン型ファブラボとは
日本で3番目となる「ファブラボ渋谷」の立ち上げを経験し、現在「ファブラボ神田錦町」の運営を行っている立場から、日本におけるファブラボの在り方、未来の理想形(これからのモノづくり)について、「これまでの歩み」「現在」を踏まえつつ、その方向性を考察する。今回はファブラボ神田錦町の前身であるファブラボ渋谷の生い立ちとこれまでの歩みを取り上げる。 - ファブラボとは何か? 国内ファブラボの歩みを振り返る
日本で3番目となる「ファブラボ渋谷」の立ち上げを経験し、現在、「ファブラボ神田錦町」の運営を行っている立場から、日本におけるファブラボの在り方、未来の理想形(これからのモノづくり)について、「これまでの歩み」「現在」を踏まえつつ、その方向性を考察する。