究極の航空機電動化は全超電導推進システム、液体窒素で冷やす:日本ものづくりワールド 2020
NEDOは、「日本ものづくりワールド 2020」内の「第2回 航空・宇宙機器開発展」において、航空機の電動化に向けて九州大学や産業技術総合研究所などが開発を進めている超電導システムを展示した。液体窒素による冷却で超電導を起こすイットリウム系超電導線材を用いて、出力1MWクラスの全超電導推進システムの開発を目指している。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、「日本ものづくりワールド 2020」(会期:2020年2月26〜28日/場所:幕張メッセ)内の「第2回 航空・宇宙機器開発展」において、航空機の電動化に向けて九州大学や産業技術総合研究所(AIST)などが開発を進めている超電導システムを展示した。液体窒素による冷却(65〜70K)で超電導を起こすイットリウム系超電導線材を用いて、出力1MWクラスの全超電導推進システムの開発を目指している。
欧州を中心に、航空機のCO2排出量の削減に向けた規制が策定されており、これに対応するための電動システムの開発が進められている。しかし、従来の発電機やモーター、ケーブルは重すぎて航空機を飛ばすことが難しい。一般的なモーターを使う電動システムの出力密度が2kW/kgで、現行のジェットエンジンが5kW/kgだが、航空機のCO2排出量を削減するには、この5kW/kgを大幅に上回る出力密度が必要になる。そこで提案されているのが超電導推進システムで、20kW/kgを達成することも可能だ。
NEDOが2019〜2023年度の5カ年で進めているプロジェクト「次世代電動推進システム研究開発」では、発電源となる高効率のガスタービンエンジンと超電導の発電機、インバーター、ケーブル、モーターから成る全超電導システムを航空機の電動推進システムとすべく研究開発を進めている。九州大学、AISTの他、神戸製鋼所、大陽日酸、SuperOx Japanなどが参画して各種要素基盤技術を開発し、2021年度には出力500kWのモーターの作製・評価、2023年度には出力1MWのシステムの作製・評価を目標としている。開発成果の実用化時期は2030年代だ。
ジェットエンジンは片翼に1〜2基を搭載しているが、全超電導推進システムの超電導モーターはより多くの数を分散配置することを想定しており、航空機の上部に配置すれば現行の航空機の半分以下の出力で離陸できるようになる。ボーイングの「B787」が出力2MW程度といわれており、開発目標とする1MWのシステムは、新たに開発する超電導航空機に十分な出力を持つことになる。
展示では、液体窒素で冷却して動かす超電導モーターの試作品も展示した。回転数400rpmでの回転試験にも成功しており、今後は離陸に必要な6000〜7000rpmまで向上することを目指す。
なお、この超電導モーターの巻線には、AISTが独自に開発したイットリウム系超電導線材をレーザースクライビングで細線化する技術を用いており、この細線化により交流損失を防いでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 離陸する航空機電動化の時代――この転換期に日本製造業は飛翔できるか
航空需要が飛躍的に高まる中、航空産業が排出する地球温暖化ガス削減は急務だ。また、空飛ぶクルマといった新たなモビリティも具現化しつつある。これらの実現を支える航空機電動化技術は日本製造業を大きく成長させる起爆剤となりえる。 - 「空飛ぶクルマ」の現在地、果たすべき役割と課題
半導体製造技術の展示会「SEMICON Japan(2019年12月11日〜13日、東京ビッグサイト)」で開催されたセミナー「SMART TransportationフォーラムII」に経済産業省 製造産業技術戦略室長の藤本武士氏が登壇。「空の移動革命に向けた政府の取り組み」をテーマに講演した。 - 空飛ぶクルマは日本の規制で実現しない? 経産省の思いは
2018年夏、経済産業省は何を狙って空飛ぶクルマに関する官民協議会を立ち上げたのか。経済産業省 製造産業局 製造産業技術戦略室長の三上建治氏と同局 総務課 課長補佐の牛嶋裕之氏に話を聞いた。 - ドアtoドアの空飛ぶクルマに挑む、日本人連続起業家を支える3つの力とは
新たなモビリティ「空飛ぶクルマ」の市場で注目を集めているスタートアップ・NFTの創業者兼CEOのカプリンスキー真紀氏が「SNUG Japan 2019」の基調講演に登壇。連続起業家として取り上げられることも多い同氏のこれまでの取り組みを紹介した他、起業家として信念や、NFTの空飛ぶクルマである「ASKA」の狙いなどについて説明した。 - NEC自社開発の空飛ぶクルマが飛んだ、ただし「機体ビジネスには参入せず」
NECは2019年8月5日、同社 我孫子事業場(千葉県我孫子市)で記者会見を開き、“空飛ぶクルマ”の浮上実験に成功したと発表した。 - 実現近づく“未来の技術”、2020年は航空機電動化の動向に注目
クルマとは違ったロマンが飛行機にはありますよね。