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空飛ぶクルマは日本の規制で実現しない? 経産省の思いはオートモーティブ インタビュー(1/2 ページ)

2018年夏、経済産業省は何を狙って空飛ぶクルマに関する官民協議会を立ち上げたのか。経済産業省 製造産業局 製造産業技術戦略室長の三上建治氏と同局 総務課 課長補佐の牛嶋裕之氏に話を聞いた。

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 “空飛ぶクルマ”に関する海外の取り組みが注目を集めている。Uber TechnologiesやAirbus(エアバス)といった名の知れた企業が参入しているだけでなく、ベンチャー企業に対して自動車メーカーなどが出資する例も多い。

 街中を空飛ぶクルマが行き交い、渋滞知らずで快適に移動できるという夢のような青写真は伝わってくるが、「本当に普及するのか」「ビジネス以前に日本では規制で進まないのではないか」と思わされる面もある。そうした心理を反映してか、空飛ぶクルマの海外プレイヤーたちは、日本の自動車業界に連携を打診しても1社からも協力を得られなかった。

 にもかかわらず、経済産業省は2018年夏、空飛ぶクルマに関する官民協議会を立ち上げた。同省は何を狙っているのか。経済産業省 製造産業局 製造産業技術戦略室長の三上建治氏と同局 総務課 課長補佐の牛嶋裕之氏に話を聞いた。


写真左から経済産業省の三上建治氏と牛嶋裕之氏。既存のモビリティは所管する部署が決まっているが、空飛ぶクルマはいずれにも属さない。そのため、どの産業にも属さず平等に空飛ぶクルマをみられる立場として、総務課が主体的に担当しているという(クリックして拡大)

経済産業省の演出

 第1回の「空の移動革命に向けた官民協議会」はベンチャー企業が多数登壇し、空飛ぶクルマのある未来について熱く語った。従来の官民協議会とは異なるトーンで会議が進められたのは経済産業省の作戦だった。「真面目にやるか、弾けた雰囲気にするかを考えた結果、ハイプサイクルのように早い段階で期待を盛り上げた方が、冷静な議論に移りやすいと判断した。誤解を招きかねない“空飛ぶクルマ”という言葉もあえて使った」(牛嶋氏)。

 空飛ぶクルマというキャッチーな表現はしているが、経済産業省では「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」と呼んでいる。電動化、自動運転化、垂直離着陸という3つが要点だ。平たく言ってしまえばモノを運ぶためのドローンの大型化であり、ヘリコプターなど人を乗せる航空機の電動化、自動運転化である。航空機における無操縦者化の検討の歴史は長い。国際民間航空機関(ICAO)に連邦航空局(FAA)や国土交通省 航空局、欧州航空安全局(EASA)が参加し、議論してきた。空飛ぶクルマに関しても、国際議論を踏まえ、欧米と連携する。

 空の移動手段に対し、電動化による部品点数削減や維持コストの低減、自動運転化による運航コストの減少を図ることで、自家用車のように一般に使えるものにすることを目指している。渋滞の影響を受けないスムーズな都市部での移動、道路での移動が難しい離島や山間部での活用、災害時や緊急時の人命救助や物的支援での活用を見込む。空飛ぶクルマを新たな産業として育てることにより、国内外の社会課題の解決と、日本の産業の発展に貢献したい考えだ。

 経済産業省は、国産の空飛ぶクルマの開発だけにこだわっているわけではなく、“稼ぎ方”が4つあると考えている。1つは空飛ぶクルマ本体の開発、販売で、2つ目は部品や技術の提供だ。3つ目は空飛ぶクルマを使ったサービスの提供、4つ目が空飛ぶクルマが使える社会における新しいビジネスの創出だ。「本体にこだわりすぎて出遅れるようであれば、部品や技術で攻めてもいいはずだ。空飛ぶクルマを使ったサービスでもビジネスはできる。完全に国産の空飛ぶクルマが飛ばなければ意味がない、とは考えていない」(三上氏)。

 牛嶋氏と三上氏は「どのような稼ぎ方であれ、市場に参入しなければシェアをとるチャンスはゼロだ。自動車産業は安全性や信頼性に関する蓄積があるのだから、空飛ぶクルマへの参入や投資を検討してみてほしい。経済産業省は、日系企業に『進出しても意味がない、規制で進まないだろう』と思わせないために、新しいことをやろうとしている人を盛り上げるために、行動したいと考えた。もちろん、空飛ぶクルマの市場環境を調査、検討した結果、参入しないと決断するのであれば、それは尊重する。経済産業省が必ず参入しろと企業に促しているのではない。先行してシェアを取る機会を逃さないでほしい」と強調した。


第1回の「空の移動革命に向けた官民協議会」の様子。関係者やメディアが多数参加した中で、ベンチャー企業が熱くプレゼンした(クリックして拡大)
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