「ひとりメーカー」Bsizeが生き残ったシンプルな理由:ポスト・メイカームーブメント(1)(5/5 ページ)
2010年代に起きた「メイカームーブメント」を振り返るとともに、2020年代に始まる「ポスト・メイカームーブメント」の鍵となる企業や技術、コミュニティーを紹介する連載。ハードウェアの量産や経営に苦労するスタートアップがいる中、モノを作り続け、成長につなげることができているのはなぜか? 日本のメイカームーブメントの先駆けとして知られ、当時「ひとりメーカー」としてメディアにも大きく取り上げられた、Bsizeの八木啓太氏にお話を伺った。
Bsizeにとって「メイカームーブメント」とは何だったのか
創業期に比べると、今の方がハードウェアスタートアップらしくなってきたというBsize。作りたいものを小ロットで生産し、世に問うという段階から、社会課題を自らの力で解決し、市場を創造する段階へと着実にステップアップしている。
八木氏にとって2010年代のメイカームーブメントとは何だったのかと尋ねると、成功と失敗の分岐点にあったのは、ミッションの有無だと答えた。
「『作りたいものを作ってみた』というのは、きっかけとしてはとても良いことですが、事業として継続していくためには『何のためにやっているのか』という、ミッションが不可欠です。自分たちの根底にミッションがあれば、世の中の変化や課題に対して、でき得る手段を駆使して歩み続けられると思います」(八木氏)
創業以降、タフな経験も多かったと振り返る八木氏は、ライフワークとして続ける覚悟がなければ継続は難しく、“プロジェクト範囲を限定し、短期に終わらせること”も確実な選択かもしれないと語る。
「クラウドファンディングでお金を集めて、たくさん売れた! というプロジェクトも、ニーズあってのことであり、とても価値があることです。ただ、単発的なケースでは、市場環境が変わってコモディティ化する可能性も大いにあり得ます。実際、作ったものが売れなくなり、終わりを迎えたというプロジェクトやスタートアップもたくさんありました。継続してやり続けたいのに、環境が変わって断念せざるを得ないとすれば、それはとても惜しいことだと思います。そうならないためには、目的のスコープを規定することが重要です。それが仮に短期間のプロジェクトだったとしてもです」(八木氏)
Bsizeは、世の中の変化を冷静に見つめながら、ムーブメントにあおられることもなく、独立独歩で製品を開発してきた。苦労して量産した1つ目のプロダクトから伸び悩むスタートアップも少なくない中、成長し続けられるのは「作ってみた」ではなく、「作り続ける」を実現する確固たる意志とアクションがあるからだろう。 (次回に続く)
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