プロジェクター化するヘッドランプ、動くモノに追従した部分消灯が課題に:安全システム(2/2 ページ)
オートハイビームは軽自動車にも搭載されるなど広く普及しているが、プレミアムブランドや上位車種向けのヘッドランプは、部分的に消灯する技術の高精度化が進む。消灯する範囲を最小限に抑えるほど、他のより多くの部分にヘッドランプの光が当たり、歩行者や自転車、障害物を認知しやすくなる。各社の取り組みから、ヘッドランプの最前線を追う。
動くモノへの追従も課題、小糸製作所の解決策は
DLPの採用拡大に向けた課題は、自動車の重要保安部品に対する各国の規制だけでなく、コストの高さにもある。小糸製作所は、コスト面や、さらにもう1つの課題の解決に向けて、複数のアプローチで次世代アダプティブヘッドランプの開発を進めている。
同社は、DLPを使ったヘッドランプのデモを消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2020」(2020年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)で実施した。担当者は「デモでは800fpsのものを使用しているが、車載用として提供されているのは60fpsだ。ランプの照射速度の面で、どんな光源を使うべきか検討が必要だ」と話す。
また、アダプティブヘッドランプの進化は、きめ細かく配光を制御するだけでなく、移動するクルマや歩行者、通り過ぎる道路標識など物体への追従性にも関わってくる。小糸製作所の担当者は「市場に出ているアダプティブヘッドランプは、動く物体に対する応答性の低さが理由で利便性が感じにくいのではないか」と話す。追従への応答性を高める対策として提案するのは、“光るモノの検知に特化したカメラ”を追加するというアイデアだ。
従来のアダプティブヘッドランプは先進運転支援システム(ADAS)用のフロントカメラで対向車や前方車を検出しているが、ADAS用の画像処理ECUとヘッドランプをつなぐ通信が原因で、配光制御まで100ms以上のタイムラグが発生していた。小糸製作所は、ADAS向けの画像処理機能からクルマのおおよその位置の情報を受け取り、ヘッドランプ専用のカメラは光っている2点の周囲を消灯範囲として検出する構成のシステムを提案する。ヘッドランプ側のカメラはADAS用のフロントカメラよりも簡単でシンプルな画像処理で対応できる点も、応答性向上につながる。こうした構成にすることにより、100ms以上のタイムラグが6msまで短縮できるという。
ただ、DLPは自動車部品として普及させるにはまだコストが高い。小糸製作所は、デジタルマイクロミラーではなく、高速回転する2枚のブレードミラー(リフレクター)を活用する。既に、リフレクターを使ったヘッドランプ「ブレードスキャンADB(Adaptive Driving Beam)」はトヨタ自動車の「レクサスRX」で採用実績があり、量産中だ。ブレードスキャンADBは、ブレードミラーの回転に合わせて12個のLED素子の点灯、消灯を制御することにより、300個のLED素子を使用するのと同等の高精細な配光を実現するという。今後はブレードADBについて、横方向の配光制御の分解能を高める。
コミュニケーション手段としてのランプ?
マイバッハSクラスのヘッドランプは、ドイツ国内での使用に限られるが、特定のマークを表示することでドライバーに注意を促す機能も持つ。工事現場など道路の幅員が狭くなる場所でガイドラインとなる線を示したり、車両のセンサーが検出した歩行者の方向を示したりする他、車間距離、路面が滑りやすいことの表示、凍結への注意喚起、前方車両への追突を警告するマークなどを路面に投影する。表示するマークはメルセデスベンツ独自のものではなく、ヘッドランプのサプライヤーであるマレリとメルセデスベンツがドイツ政府とともに法整備した公的なデザインだ。
別の自動車用ランプのサプライヤーは「路面にマークやメッセージを投影する機能はわれわれも開発してはいるが、どれだけニーズがあるのか。もっと分かりやすいコミュニケーション手段があるのではないか」と語る。
後方車両に向けた意思表示や注意喚起について、TIは先述したDLPと特殊なフィルムを使ったリアガラスを組み合わせて、文字やイラストを高い視認性で表示する。アウディは既に一部車両のリアランプに有機ELを採用しているが、イルミネーションの演出だけでなく、図形の表示も視野に引き続き有機ELランプの開発を進めている。
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