船はどうやって自動運航するのか、クルマから使える技術も:自動運転技術(4/4 ページ)
東京海洋大学が、2019年9月4日と5日に東京都内で水陸連携マルチモーダルMaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)の実証実験を実施。この記事では実証実験と討論会における自動運航に関する内容について主に解説する。
自動操船にもセンサーフュージョン
今回の実証実験では、船上のカメラでとらえた映像が周囲の一部(船首方向)に限られており、「らいちょうI」の位置と周囲の状況を陸上のコントロールセンターから目視で把握して遠隔操船を実施していた。現在の構想では、遠隔操船と組み合わせて船側で発見した障害物を自律的に回避する操船も目指している。
自律航行技術では「カメラなどによる障害物探知技術」「半沈漂流物があるもとでの自動航行技術」「自動離着桟技術」が必要になるが、航行する海域や運航する船舶によって検討すべき問題は大きく異なるという。「都市部で多い水上バス(横浜港のシーバスで総トン数約43t、全長約20m)と、内航船(総トン数100〜499tが68%)、外航船(平均して総トン数1万t前後)で操船方法が全く異なる」(清水氏)
さらに、船の市場は規模が小さいため、舶用に限って開発すると自動車用と比べて価格が高くなってしまう。そのため、自動車用の技術を活用しながら自動運航船の研究開発を進めることになる。その例として清水氏はカメラによる監視システムを利用した見張りシステムを挙げた。ただし、そのまま搭載して使えるということではなく、船体が大きく揺れる小型船舶の利用では、揺れに対応して監視アングルが一定に維持できる必要が出てくるという。また、水面下にほぼ沈んでいる漂流物の発見は自動車用監視システムでは対応できないなど、船舶だけに特有の問題で解決策がない状況とも述べている。
なお、外部状況の認識技術について田村氏は、「自動操船のコア技術になる」という認識を示し、複数のセンサーを統合して活用する取り組みが必要と述べている。
その中でAISについて、外部状況の認識に便利な手段としながらも、全ての船舶に搭載を義務付けられているものではなく、仮に法的制約をなくして価格も安い製品が登場して、GPSのように義務化しなくても全ての船舶が利用になった場合、今度は電波帯域の制約(AISはVHF無線を使ってデータを送受信する)で、データ送受信に遅延や送受信漏れが生じて使えなくなるという見方を示した。
また、水面下の障害物把握に釣り用の低価格な魚群探知機の応用に関する可能性については、一部の舶用メーカーでソナーを使った前方警戒用ソナーを開発しているが、価格的な問題で全ての船に搭載できるかは難しいとしている。
陸上に設けたコントロールセンターからの遠隔操船が重要になる東京海洋大学の自動運航船システムでは、コントロールセンターと船を無線ネットワークで接続することが必須になる。そのネットワークインフラとしては、遠距離をカバーする必要があるため5GではなくLTEが有利だ。しかし、そうなると転送容量に制約が出るため、コントロールセンターと自動運航船でやりとりするデータの種類と容量を精査する必要が出てくる。
実際、遠隔操船で重要な船側に搭載したカメラの映像を東京湾沿岸部で転送すると、時折、ネットワークが輻輳(ふくそう)して画像が送れなくなる症状が発生している。そのため、今回の実証実験ではコントロールセンターから直接「らいちょうI」を目視で把握し、コントロールセンターから“ラジコン”のように操船していた。
なお、コントロールセンターには無線LAN送受信用アンテナとして、120度をカバーできる屋外通信用フェーズドアレイアンテナを使い、障害物がない直線距離で約500mの伝送を可能としている。欧米における実証実験では、運河や河川沿いに30度カバーの無線LANアンテナを多数設置し、ローミングで接続を維持する方法も取られていると東京海洋大学では説明している。
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