MaaSの非競争領域はマイクロソフトが提供、技術者育成から実用化まで支援も:モビリティサービス
日本マイクロソフトは2019年8月27日、東京都内で記者説明会を開き、MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)を導入したい自治体や、関連技術を持つ企業向けに日本で支援策を展開すると発表した。
日本マイクロソフトは2019年8月27日、東京都内で記者説明会を開き、MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)を導入したい自治体や、関連技術を持つ企業向けに日本で支援策を展開すると発表した。
MaaSは地域の課題や目的に合わせた企画や開発が必要となるが、共通して必要になる非競争領域のシステムを定型化したレファレンスアーキテクチャを提供、開発期間を大幅に短縮する。MaaS向けのレファレンスアーキテクチャを展開するのは、日本マイクロソフト独自の取り組みとなる。また、技術者育成プログラムの提供や新規ビジネス開発の支援、MaaS構築を支援するパートナー企業によるエコシステムも併せて展開し、MaaSの実現を後押しする。
日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 運輸・サービス営業統括本部 Industryエグゼクティブ MaaS & Smart Buildingソリューション本部 専任部長の清水宏之氏は「実現したMaaSがAzure上で稼働することにより日本マイクロソフトの収益につなげていく」と説明する。
MaaS向けのレファレンスアーキテクチャの策定や、技術者育成プログラム、新規ビジネス開発支援はMaaS関連のベンチャー企業であるMaaS Tech Japanが協力している。同社は、東日本旅客鉄道(JR東日本)でモビリティの戦略策定に携わった日高洋祐氏が立ち上げた。
日本のMaaS実現に向けた課題
MaaSの日本市場は2020年に1940億円、2025年には2兆1042億円に拡大すると予測されている。しかし、MaaSのシステム構築やアプリケーション開発には参照できるモデルや設計手法がなく、コストや時間がかかることが課題となっていた。また、日本は1つの地域に複数の交通事業者が存在することも多く、モビリティサービスの連携先が複数にわたるため、効率的な連携の実現が求められている。さらに、開発に当たって既存の交通システムやデータに関する理解が求められるため、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の活用が進みにくいという課題もあった。
日高氏によれば、MaaSに携わろうとする企業は大きく2パターンに分かれている。「自治体などは、MaaSを導入したいが何ができるのかがイメージできていない状況だ。一方、経路検索などMaaSに関連した技術を持つ企業は、自社の技術をMaaSに使いたいが、どのように使えるか描けていない。“MaaSの設計図”としてレファレンスアーキテクチャを提供することで、自治体はMaaSの全体像を描けるし、既に技術を持つ企業はどんな連携が必要かが見えてくる」(日高氏)とし、日本マイクロソフトとともにMaaSの実現をサポートする考えだ。
日本マイクロソフトは、支援策の対象に近い企業5社に実際にレファレンスアーキテクチャを使ってもらい、新規サービス開発期間を5割、実装方式設計コストを7割削減できることを確かめた。将来的な運用コストは5割削減できるとしている。
MaaS向けのレファレンスアーキテクチャに含まれるのは、MaaS利用者がシームレスにさまざまな事業者のサービスを利用するためのユーザー認証、サービスAPI連携、MaaS利用ログの管理、分析の仕組みといった、どの地域のMaaSにも共通する部分だ。MaaSアプリケーションのサンプルコードも提供する。MaaS向けレファレンスアーキテクチャを使う企業や自治体は、サービスで独自性や地域色を出す部分の開発に集中することができるとしている。
サンプルコードで提供するのは、働き方改革向けのMaaSを想定し、1日の複数の往訪先に合わせた効率的な移動や乗り換え、出先での作業を提案するアプリケーションだ。Microsoft PowerAppsとAzureを組み合わせた実装で、Office365の予定表、オープンソースの経路検索エンジンOpenTripPlannner、Bing Mapの地図情報を組み合わせる。Bing Mapの利用は強制ではない。
MaaS開発の支援策には、ソリューション開発やシステムインテグレーション(SI)をサポートするパートナー企業が参加するエコシステムも含まれている。業種ごとにデジタルトランスフォーメーションを支援するパートナープログラム「Microsoft Partner Network for Industry」の対応業種にMaaSを追加した格好だ。日本マイクロソフトとパートナー企業が協力して、MaaS実現を支援する。
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