日本発で取り組む医療×MaaS、病院にも稼働率改善が必要だ:つながるクルマ キーマンインタビュー(1/3 ページ)
自動車業界以外の企業はMaaSでどんな課題を解決し、何を実現しようとしているのか。MONETコンソーシアムのメンバーでもあるフィリップス・ジャパンの戦略企画・事業開発兼HTSコンサルティング シニアマネジャー 佐々木栄二氏に話を聞いた。
ソフトバンクとトヨタ自動車が立ち上げた共同出資会社「MONET Technologies」のコンソーシアムには、さまざまな業種の企業が参加している。2019年6月末時点の加入社数は276社で、MaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)に対する関心の高さがうかがえる。
自動車業界以外の企業はMaaSでどんな課題を解決し、何を実現しようとしているのか。MONETコンソーシアムのメンバーでもあるフィリップス・ジャパンの戦略企画・事業開発兼HTSコンサルティング シニアマネジャー 佐々木栄二氏に話を聞いた。
医療にアクセスできない人のために、ITだけでなくモビリティが必要
MONOist フィリップスは医療機器メーカーとして知られていますが、なぜモビリティに関心を寄せているのですか。
佐々木氏 ヘルステックでナンバーワンになるというビジョンの下で、ヘルスケアにITやIoT(モノのインターネット)といったデジタル技術を取り入れようと取り組んでいる。しかし、患者やユーザーとの接点をいかに持つかという点では、治療や薬の処方などリアルなやりとりが必要な場面がまだたくさんあり、デジタル技術を誰もが使いこなせるわけでもない。そこで、モビリティを活用することが必要であり、ニーズがあると考えた。
MONETを立ち上げたソフトバンクとは2017年から提携している。MaaSに関しては2018年12月の戦略発表会で取り組む方針を示し、その後MONETコンソーシアムに参加した。
MONOist 患者やユーザーとの接点とはどういうものですか。
佐々木氏 地方や過疎地では医療にアクセスできない人がいるため、病院と自宅を結ぶ何かが必要だ。そのため、医療に関するモビリティサービスをやりたい自治体は多い。田舎という印象のない地域でも、病院に医師が来るのは週2日だけという場合があるし、慢性疾患で週に何度か通院しようにも移動が不便というケースもある。医療へのアクセスの課題解決は日本全国で需要があり、日本以外でも求められている。日本で作ったものは海外にも輸出できると考えている。
高齢化の進行や都市と地方の格差といった要因から、医療とMaaSのニーズが一番顕在化しているのが日本だ。そういった事もありフィリップスのMaaSは日本発で取り組んでいる。社内的にも注目を集めており、海外拠点から何をしているか教えてくれといわれたり、グローバル展開はいつかと聞かれている。
MONOist ヘルスケアとモビリティサービスを組み合わせることで、どんな社会にしたいと描いていますか。
佐々木氏 会社として正式に決めたものではなく個人的な考えだが、「属していれば自然と健康になれるコミュニティー」をイメージしている。移動手段が理由で病院に行きづらい人や、一人暮らしで家にこもりがちな人のところにモビリティがやってくることで、病院と家の間が埋まり、外とのコミュニケーションが定期的に生まれる。こうしたコミュニティーで病気にならない仕組みづくりにチャレンジすることがテーマだ。それができる場所は日本にたくさんあるのではないか。
一人暮らしの高齢者が日々どう過ごしているか、いつ出かけたか、何を買うか、体調はどうか……といった情報を分析することで病気にかかる可能性を推定することができる。また、移動データを蓄積することによって、通院に移動に要する時間が分かれば、病院の稼働率を改善したり、移動中に何かサービスを提供する新しい事業も開発したりできないかと考えている。移動データはMONETコンソーシアムとしては蓄積がある。新しいサービスの開発はこれからなので、MONETコンソーシアムで協力して作っていきたい。
MONOist MONETコンソーシアムでは高齢者のデータも持っていますか。
佐々木氏 現在は、オンデマンド移動のアプリができてきて、実証実験が行われている段階だ。高齢者の買い物、病院に通う頻度など日常の移動に関するデータは、これから集まっていく。データがまだ集まっていないマーケットでサービスを始め、集めた健康と移動に関するデータを組み合わせれば、新しいサービスが生まれる。これを試していけば、そこにいれば健康になれる場所をつくっていけるのではないか。
ヘルスケア分野のモビリティサービスでも、オンデマンド移動ができないとあまり意味がないと考えている。移動中のサービスはもちろん、病院の稼働率を改善する上ではオンデマンド移動のデータが必要だ。オンデマンド移動のスマートフォンアプリは患者との接点を増やすことにもつながるだろう。
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