自動運転車の意思表示で「窓」が重要になる理由:自動運転技術(2/2 ページ)
現在、ドライバーは他のドライバーや歩行者に、ライトを使って合図したり手振りをしたりするなどのさまざまな方法で意図を伝えています。しかし、クルマからドライバーがいなくなったらどうなるのでしょうか。
透明ウィンドウディスプレイテクノロジーを取り入れると
車載グレードの透明ディスプレイソリューションには、窓の表面を使って、昼夜に関係なく他のドライバーや歩行者の目に見える具体的な画像や文字(「お通りください」など)を表示することで、ドライバーレスカーで生じるコミュニケーションの課題に対応できる大きなポテンシャルがあります。
車の窓を使って重要な情報を表示するには、図1のように、小型のプロジェクターを設置し、サイドウィンドウ、リアウィンドウ、フロントガラスに情報を表示します。窓の層に透明フィルム材を組み込むことで、ドライバー、自転車搭乗者、歩行者に対する情報を表示できるようになります。
プロジェクター方式のテクノロジーは、ドライビング体験を拡張するためにすでに利用されています。このテクノロジーにより、フロントガラス上に情報を表示して拡張現実(AR)のヘッドアップディスプレイ(HUD)が強化され、ドライバーは路上から目を離さずに窓上の重要な情報を確認できます。
光学方式のこの同じテクノロジーを使用することで、必要なときは既存のウィンドウ設備がディスプレイに変わり、それ以外のときは通常のウィンドウとして完全に機能します。美観的には、スマートな車体はそのままで、電力面でもディスプレイ機器を常時稼働させておくことはありません。
この先の道を照らす
透明ウィンドウディスプレイが活用されそうな用途としては、もちろん、現在の合図方式を強化して他のドライバーや歩行者と情報を共有することが挙げられますが、それ以外にも多くの可能性があります。自動運転車が一般的になる前でも、透明ウィンドウディスプレイは、情報を伝えるとともに現在の信号技術や手振りを補うことができます。
透明ウィンドウディスプレイの初期の導入候補になりそうなのが、タクシー事業です。ウィンドウディスプレイを使って、乗り場がここであることを乗客に分かりやすく知らせることができるでしょう。 バスも、路線の次の停留所の詳細や、リアウィンドウ上の停止サイン点灯など、路上を走る他のクルマや、停留所で待つ人、乗っている乗客と共有すべき多数の情報を持っています。透明ウィンドウディスプレイは、気象警戒警報やその他の緊急通知の重要な伝達ルートになる可能性もあります。
バスとタクシーでは、進行方向や意図の情報を共有する以外にも、ダイナミック広告を表示することもできるでしょう。媒体としてウィンドウを利用するダイナミック広告なら、静的な広告に比べて変更が簡単です。これらの次世代広告ディスプレイは簡単に設定を変えられるだけでなく、クルマのGPSデータを活用して特定のエリアにいる人をターゲットにした広告を表示することで収入源を広げることができます。これは、ライドシェア専用車にもメリットがあるかもしれません。広告は車内の乗客に対しても表示でき、タクシーやホテルと空港間のシャトルバスの車内で観光情報やインフォテインメントを提供することでさらに収益の道が作られるでしょう。
ロボットタクシーや自動公共交通機関の実現は、はるか遠い将来のことではありません。ドライバーレスカーが走り始めるようになると、交通の流れを最適に保ち、安全を維持するために、ドライバー、歩行者、自転車搭乗者の間で意図を伝えあう手段を拡張しなければならなくなります。透明ウィンドウディスプレイは、現在のクルマを強化し、未来のクルマではたとえハンドルを握るドライバーがいなくても意図を伝えられるようにする、堅牢で機器への影響の少ない方法を提供します。
著者紹介
Jason Thompson
テキサス・インスツルメンツ
オートモーティブ・ディスプレイ部門 マネージャ
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