「OPC UA」はなぜさまざまな規格の通信をつなげることができるのか:OPC UA最新技術解説(2)(2/2 ページ)
スマート工場化や産業用IoTなどの流れの中で大きな注目を集めるようになった通信規格が「OPC UA」です。「OPC UA」はなぜ、産業用IoTに最適な通信規格だとされているのでしょうか。本連載では「OPC UA」の最新技術動向についてお伝えします。第2回である今回は、「つなげる」を切り口とし、「OPC UA」の相互接続性とTSN対応について紹介します。
OPC UA over TSNによるフィールドレベルとの調和の検討
さて、ここからは「つなげる」に関連し、最近話題になっている「OPC UA over TSN」への取り組みをワーキンググループの活動を通じて紹介します。
本連載の1回目に紹介した「管理シェル」のようなメリットを得るためには、アプリケーションの動作する機器が互いに共通のワイヤでつながっていることが前提になります。制御系から上位のネットワークの場合、それを実現している主流の手段としてイーサネットケーブルがあります。このイーサネットケーブルをフィールドレベルにも適用させる動きが、LANなどの標準規格を管理するIEEE 802に属する幾つかのワーキンググループで進められています。
IEEE 802.3で定めたイーサネットを利用する一般の場合は、ケーブルに流れるデータ量によって通信速度が一定しません。そこで、イーサネットの上でデータ転送の遅延のばらつきを回避するプロトコル Time-Sensitive Network(TSN)をIEEE 802.1が策定しています。さらにその上位の通信プロトコルがTSNを利用できる仕様を、IEC/IEEE 60802で規格化する動きが進んでいます。OPC UA over TSNワーキンググループではさらにその上の仕様として、通信スタックにTSNをパブリッシュサブスクライブ形式の通信モデルのトランスポート層として取り込むことと、それを管理する情報モデルを検討しています。
従来のフィールドバス通信規格ではデータ遅延回避のために特定フィールドバスの持つ特性を利用し、異なるフィールドバス間で時刻同期を取ることで解決するケースもありました。ただ、フィールドレベルの上位の管理層でその構成や制御を掌握できていないという課題がありました。OPC UA over TSNを利用してフィールドレベルとの調和を実現することで「管理された遅延と帯域幅の保証」が可能になり、QoS(Quality of Service)を改善することができます。
OPC UA over TSNによりパブリッシュサブスクライブ形式によるサイクリックな伝送が確実に行われます。これにより実現する世界のイメージとして、I/OやPLC、ロボットなどが、管理された時刻同期性を持って連携できるようになります。例えば、製造ラインを流れる製品ごとに、ライン上の機器に対して設定変更を同期かつ一斉に行うことができるようになるので、多品種少量生産をより効率的に実現できるのではないかと感じています。また、SOE(Sequence of Events)にも期待できます。複数のコンポーネントに跨る不具合を解析するために各コンポーネントから発生したイベント群を集約して扱う場合に、それぞれの時刻が整合されていないとSOEによる解析ができません。
TSNに限らず、TSNではカバーできない要件を実現するフィールドバスにも同様な調和による管理ができるようになれば、その範囲がさらに広がることが期待されます。
著者紹介:
日本OPC協議会 技術部会長 藤井稔久(ふじい としひさ)
日本OPC協議会では技術部会長として国内のOPCの普及と維持に努める。OPC UAの国際標準化を審議するワーキンググループ(IEC/SC65E/WG8)の国内委員会幹事を10年務め、その功績により日本電気計測器工業会の国際標準化作業貢献賞を2014年に受賞。現在も国際エキスパートとして規格化に貢献する。
アズビル株式会社では産業オートメーションシステムのソフトウェア開発に従事し、フィールドバス、分散制御システム(DCS)、製造実行システム(MES)、クラウドアプリケーションに携わる。
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