車いすをカッコいい乗り物に! 既成概念を打ち破る「WHILL」のデザイン思想:デザインの力(3/3 ページ)
「全ての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに掲げ、誰もが乗りたいと思えるパーソナルモビリティを手掛けるWHILLの平田泰大氏に、歴代「WHILL」の変遷を踏まえながら、デザインに込められた思いや、各世代でどのようなチャレンジが行われたのかを詳しく聞いた。
ジェネレーティブデザインへの挑戦で何を得たか?
――「軽量化」の話題が出ましたが、「WHILL Model C」でチャレンジしたジェネレーティブデザインについて教えてください。
平田氏 より幅広い方たちに「WHILL」を利用してもらいたいという思いから、セダンタイプの自動車のトランクに積んで持ち運べることを目指し、「WHILL Model C」では分解できるようにしたのはご説明した通りです。ユーザーの裾野を広げる意味で、分解した各コンポーネント(シート、前輪、後輪[メインボディー])を“いかに軽くするか”が重要で、特に気を配りました。
「WHILL Model C」では、各コンポーネントを目標であった約15〜20kgの範囲内に納めることができましたが、それでもやっぱり「軽さは正義」で、軽ければ軽いほどユーザー層は広がります。ですから、この軽さの追求は今後の「WHILL」開発を含め、とても重要なテーマの1つだと認識しています。
しかし、軽量化のために、性能や機能を犠牲にしたくはありません。そこをどう実現するか、「WHILL」としての価値を落とさずに軽量化することができれば、“軽さ”というものが純粋に新たな付加価値になるはずなんです。そんな思いもあって、2018年の夏ごろから「ジェネレーティブデザイン」に挑戦し始めました。
普段の設計では「SOLIDWORKS」をメインで使用していますが、オートデスクの「Fusion 360」を導入し、「WHILL Model C」のコンポーネントで最も重いメインボディー部のフレーム設計にジェネレーティブデザインを適用して、実際にアルミ鋳造でパーツを試作しました(関連記事:未知なるジェネレーティブデザインを前に砂型鋳造の限界に挑んだ町工場のプロ魂)。
その後、出来上がった試作パーツを用いた検証を行ったところ、想定通りの結果を出すことができました。正直、ここまで良い結果が出るとは思わなかったので「これなら使えるな」という手応えが得られました(※注1)。
※注1:アルミ鋳造による試作は、最初、横浜にある旭鋳金工業が支援し、その次にキャステムが協力。ここで触れている検証には、キャステム側の試作パーツが用いられている。
ただ、ジェネレーティブデザインで導き出された形状を、そのまま量産に適用するのはあまり現実的とはいえません。これをどうやって量産可能なカタチにしていくかが次のステップだと認識しています。また、現時点でジェネレーティブデザインの有機的な形状を「WHILL」の意匠面にそのまま使うことも考えづらいので、どの部分で活用できるかも含めて検討していかなければならないと考えています。
設計の初期段階でジェネレーティブデザインを適用することにより、要求仕様を満たせるミニマルな形状を早期に導き出すことができ、それをスタートラインに、デザインチームと共有しながら、あるべきカタチを作り上げていくことが可能になります。こうしたアプローチは、これまで実現できるものではなかったので、軽量化の観点からも今後ぜひチャレンジしていきたいですね。
ジェネレーティブデザインは、設計とデザインの在り方を変える可能性を秘めています。今回の一連のチャレンジで社内的にも「ある程度使えそうだね」という雰囲気になってきているので、「WHILL」の将来モデルにジェネレーティブデザインのエッセンスが適用される可能性も十分にあり得ると思います。
全員が納得感をもって次の改善に向かえる、大切にしてきた「ユーザーの声」
――最後に、将来モデルに向けたデザインの方向性について教えてください。
平田氏 WHILLが掲げる「全ての人の移動を楽しくスマートにする」という思いは、これから先も変わることはありません。
そして、これまでの「WHILL」の開発を支えてきた、ユーザーさんたちの声も変わらず大切にしていきたいですね。設計やデザインのメンバーが「これならいける!」と思ったものでもユーザーからすると使いづらいものだったり……。そうしたユーザーさんからのダメ出しの声は非常に重要で、開発チーム全員が納得感をもって次の改善に向かえるんです。
そういう意味で、われわれだけで「WHILL」を作ってきたわけではなく、ユーザーの皆さんと一緒に作り上げてきたといえます。誰の意見が一番(ナンバーワン)というのではなく、デザイナーの意見も一つの答えだし、設計者の意見も一つの答えだし、ユーザーさんの意見も一つの答えなんです。そういうスタンスは、今後も変わることはないでしょう。
また現在、ラインアップの拡充だけではなく、MaaS(Mobility as a Service)や自動運転といった新しいチャレンジにも力を入れています。既成概念に捉われることなく、より新しい提案をすることで、「WHILL」のユーザー層、「WHILL」の活用シーンをさらに広げていきたいと思っています。そうした「WHILL」の新しい利用シーン、「WHILL」のある暮らしに適した“次のカタチ”を模索していきたいですね。
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