車いすをカッコいい乗り物に! 既成概念を打ち破る「WHILL」のデザイン思想:デザインの力(2/3 ページ)
「全ての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに掲げ、誰もが乗りたいと思えるパーソナルモビリティを手掛けるWHILLの平田泰大氏に、歴代「WHILL」の変遷を踏まえながら、デザインに込められた思いや、各世代でどのようなチャレンジが行われたのかを詳しく聞いた。
誰もが乗れるモビリティとして進化を続ける「WHILL」
――歴代モデルのディテール、デザインのポイントについて、もう少し詳しく教えてください。
平田氏 既存の車いすにアドオンする方式を採用した「WHILL」プロトタイプ第1号は、乗っている姿がカッコよく見えるよう、前傾姿勢のまま、わずかな体重移動で「WHILL」をコントロールできるようなインタフェースを採用しました。具体的には、フロントの持ち手部分がそうで、前に倒すと前進、後ろに引くと後進、斜めにひねると曲がるといった具合で操作できます。
先ほどもお話しましたが、実際に車いすに取り付けて駆動するところまで作り上げたのですが、使用してみるといろいろな気付きが得られたんです。構造として既存の車いすにアドオンするタイプなので、物理的に横幅が広がってしまいます。だから狭い通路やドアだとうまく通過できないという問題にぶつかりました。せっかく電動化できて、スタイリッシュな移動が実現できても、これでは意味がありません。また、取り付けも手間がかかるため、“誰でも簡単に”とはいかず、結局「もっとユーザビリティを追求しないとダメだね」となったんです。
それではと、プロトタイプ第1号のデザインフィロソフィー(哲学)を継承しつつ、アドオンではなく、完全な電動モビリティを作ってしまおうと開発したのがプロトタイプ第2号です(前輪1つ、後輪2つの3輪走行)。
繰り返しになりますが、ここで初めてオムニホイールを採用しました。ロボティクス分野では主流のオムニホイールですが、モビリティ分野で使われるケースは非常にまれです。ですが、「一般的なキャスタータイプの車輪を備える車いすをしのぐ“高い走破性”を実現したい」との思いから採用を決め、オムニホイールを前輪に搭載しました。想定通り、高い走破性を実現することに成功しました。また、同時にインタフェースを組み込んだフロントバーのサイド部分を可動式にすることで、乗り降りのしやすさも向上させました。
ここからさらに本格的なユーザーテストを行うようになったのですが、オムニホイールを前輪に採用した3輪走行だと、一度溝にはまってしまうと抜け出せないという課題が見つかったんです。前輪が固定されていないキャスタータイプであれば、後輪の回転方向を左右それぞれ逆回転にすることで前輪が動き、溝から抜け出せるのですが、オムニホイールはタイヤが前を向いたまま固定されているのでそうもいきません。こうした経験から、現在の4輪タイプに行き着いたのです。
4輪でかつ前輪2つにオムニホイールを採用すれば、前輪と後輪をベルトでつなげることで四輪駆動を実現でき、走破性のさらなる向上が期待できます。さらにインタフェースを洗練させて、座り心地や安定性を向上させることで、初の製品化モデル「WHILL Model A」が誕生しました。
「全ての人の移動を楽しくスマートにする」というコンセプトでも表現されている通り、障害のある人だけでなく、誰もが乗れるモビリティとして「WHILL」を発展させてきました。例えば、この十数年の間で、視力を矯正する道具だったはずの眼鏡が、ファッションアイテムになり、さらにはスマートグラスのような最先端デバイスとして発展してきたように、われわれは車いすを障害の有無など関係なく、誰もが乗りたいと思えるようなカッコいい乗り物にしたいんです。
さらに「全ての人」という意味合いで言えば、プロトタイプ第1、2号まで採用していたフロントバーによるインタフェースをWHILL Model A以降のモデルで廃止しました。例えば、乗り込むのに介助が必要な方だとフロントバーは邪魔な存在になってしまいます。そのため、WHILL Model A以降は、左右のアーム部分に移動用のジョイスティック、変速機および電源装置を配して、指や手で操作するコンセプトに変更しました。ちなみに、アーム部は可動式になっており、乗り降りのしやすさが大幅に向上しています。
そして、普及モデルとして開発した「WHILL Model C」ですが、こちらはより「WHILL」のユーザー層を広げるための“在り方”を追求した製品で、企画会議で多数の意見が上がった「持ち運び」の実現を目指した分解可能なモデルになっています。
当初は「折り畳み」という案もあったのですが、WHILLの性能面での最大の特長である走破性を継承する上では、安全性の観点から極端な軽量化は難しく、結局のところ重いものを折り畳んだところで可搬性は良くならないという結論に至ったんです。
もともと「分解」という方法があることも頭の片隅にはあったんですが、モノづくりとしてのハードルがどうしても上がってしまうので踏み切れずにいたんです。しかし、「やっぱり走破性を妥協することはできない」ということで、分解する道を選んだんです。各コンポーネントを20kg以下に抑えれば何とかいけるはず――。そうした制約の中、どれだけ軽くできるかを突き詰めながら開発したのが「WHILL Model C」なんです。
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