自動追従の電動車いすが成田空港で検証、高齢者の乗り継ぎ不安を解消へ:ロボット開発ニュース
全日本空輸(ANA)とパナソニックは2019年5月16日、前方の車いすに自動で追従する電動車いすの実証実験を成田空港で行った。航空便を乗り継ぐ高齢者など、移動に不安を持つ乗客の利便性向上と空港地上係員の負担軽減を狙う。
全日本空輸(ANA)とパナソニックは2019年5月16日、前方の車いすに自動で追従する電動車いすの実証実験を成田空港で行った。航空便を乗り継ぐ高齢者など、移動に不安を持つ旅客の利便性向上と空港スタッフの負担軽減を狙う。
政府のインバウンド事業推進による訪日外国人増加などにより、国内空港の利用者数は年々増加している。成田空港では2018年の航空機発着回数が25万5000回を超え、空港を利用する旅客数は4260万人にも達する。このように多くの旅客が利用する空港施設は、特にバリアフリーやアクセシビリティーに配慮した設計やサービスを提供することが求められる。
そのような状況で、「成田空港で車いすの利用を希望する旅客が増加傾向にある」とANAで企画室 イノベーション・KAIZEN部 担当部長を務める鈴木謙次氏は指摘。「われわれは成田空港をアジアと北米をつなぐハブ空港としてダイヤ設計を行っており、乗り継ぎを希望する旅客が多い。ベトナムから成田空港を経由して北米に向かう乗り継ぎでは、多い場合で1便あたり30人のお客さまが車いすの利用を希望する」(鈴木氏)として、空港内における車いす利用のニーズが高まっていることを紹介した。
実証実験は2019年1月に続いて今回が2回目で、ANA社員などが参加して安全性や快適性、サービス品質や運用性を評価する。先頭の電動車いすを空港スタッフがジョイスティックコントローラーで操作し、その車いすに後続の電動車いすが自動で追従走行する。
検証を行う電動車いすは、パナソニックと電動車いすベンチャーのWHILLが共同開発した。最大搭乗重量は100kgで座席後部には最大10kgの手荷物を置くことができる。最高速度は時速4kmで、取り外し可能なバッテリーを満充電した場合には10km程度の走行が可能だという。
車いすの前輪上部にはレーザーレンジファインダーが設置され、前方車両の反射板の位置を計測することによる追従走行する。また、このレーザーレンジファインダーは車いす周囲の障害物検知も担っており、人や障害物と接触が予想される場合には車いすが自動で停止する。車列を組む車いすは車両間で無線通信を行っており、停止情報は全車両で共有される。また、車いす操作用としてタブレット端末が設置されており、端末を通じてグランドスタッフに停止を求めることやエンターテイメント機能などが利用できるとする。
今回の実証実験では3台の追従走行としているが、技術的には最大10台で車列を構成できるという。今後、把握した課題を踏まえて改善を施し、実際の旅客をモニターとする実証実験を2019年度内に行う方針だ。鈴木氏は「飛行機を利用する全てのお客さまの利便性を高めることを目的として、空港における車いすのご案内について新しいサービスを検証する」と実証の意義を語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “移動の価値”を再定義するパーソナルモビリティ「WHILL」
単なる車いす/電動車いすの置き換えではなく、“誰もが利用できるパーソナルモビリティ”としての存在感を強める「WHILL(ウィル)」。その製品開発に込められた思い、そしてWHILLの普及を通じてどのような社会を目指そうとしているのか、WHILL 車両開発部 部長の平田泰大氏が語った。 - 「追従走行カートロボ」は「WHILL NEXT」と同じレーザーレーダーを5個搭載
パナソニックは、「Wonder Japan Solutions」において、空港などでの荷物運びに利用できる「追従走行カートロボ」のデモを披露した。現時点では開発コンセプトの段階で、顧客やパートナーからの意見を反映し、早ければ2018年にも実証試験を実施したい考え。 - 車いす型パーソナルモビリティ「WHILL」の研究開発用モデルを発売
WHILLは、外部から制御可能な研究開発用途のパーソナルモビリティ「WHILL Model CR」の予約販売を開始した。スマートモビリティの開発や自律ロボットを研究するプラットフォームとしての利用を想定する。 - 歩行領域における自動運転システムにソフトウェア開発サービスを提供
フィックスターズの子会社Fixstars Autonomous Technologiesは、「WHILL自動運転システム」の自動運転部にソフトウェア開発サービスを提供した。 - 電動車いすをMaaSの一部に、呼ぶと自律走行で迎えに来てくれる
電動車いすベンチャーのWHILLは2019年1月7日、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2019」(2019年1月8〜11日、米国ネバダ州ラスベガス)において、電動車いす向けの自動走行技術「WHILL 自動運転システム」を出展すると発表した。また、同システムは「CES 2019イノベーションアワード」を受賞した。同賞は、優れたデザインやエンジニアリングのコンシューマーエレクトロニクス製品に贈られる。 - 米FDAの認可を取得した電動車いす、医療機器として販売可能に
WHILLは、2016年初夏からの発売を予定しているアメリカ市場向けの車いす「WHILL Model M」が、米食品医薬品局(FDA)の認可を取得したと発表した。