組み込みAIは必要不可欠な技術へ、推論に加えて学習も視野に:MONOist 2019年展望(4/4 ページ)
2017年初時点では芽吹きつつあった程度の組み込みAI。今や大きな幹にまで成長しつつあり、2019年からは、組み込み機器を開発する上で組み込みAIは当たり前の存在になっていきそうだ。
組み込みAIで学習は可能か
組み込みAIについては、処理性能などのリソースが限られることもあり、クラウドやサーバで学習した推論アルゴリズムを実装することが前提になっていることが多い。しかし、もし組み込みAIで学習を行って、動的に推論アルゴリズムをアップデートできるのであれば、クラウドやサーバにデータを送って再学習し、再度推論アルゴリズムを実装するという手間が省ける。
オムロンと制御機器向けAIエンジンの共同開発を発表したベンチャー企業のエイシングは「組み込みAIでも学習を」(同社 代表取締役CEOの出澤純一氏)と訴える。エイシングが手掛けるAI技術「DBT(ディープバイナリーツール)」は、AIブームをけん引してきた深層学習とは異なるアーキテクチャに基づいている。このため、深層学習が得意とする画像データを扱うには不向きだが、IoTデータのほとんどを占める時系列のセンサーデータの処理に適しており、「Raspberry Pi」レベルのハードウェアやマイコンでも学習が可能とする※)。
※)関連記事:“ラインイベントゼロ”実現へ、オムロンが機械制御向けAIベンチャーと提携
DRPを開発したルネサス エレクトロニクスも、将来的な組み込みAIでの学習を目指している。第1弾製品の「RZ/A2M」では、深層学習による画像データの推論処理性能が従来比10倍になったが、今後はDRPの改良や製造プロセスの進化により、2021年には同1000倍に高める考えだ。「1000倍ともなれば、現在はエンドポイントでは難しいとされる学習も行えるようになるだろう」(同社 執行役員常務 兼 インダストリアルソリューション事業本部長の横田善和氏)としている。
これまでは難しいとされてきた組み込みAIでの学習だが、さまざまな技術の進化により可能になる道筋が見いだされつつある。そういった意味でも、組み込み機器のエンジニアにとって、組み込みAIはもはや必要不可欠な技術といえるだろう。
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