ルネサスの組み込みAIの性能は10倍×10倍×10倍で1000倍へ「推論に加え学習も」:人工知能ニュース(1/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスは、汎用事業の成長ドライバーに位置付ける組み込みAI(人工知能)技術「e-AI」をさらに強化する。現在のMCU/MPUを用いた組み込みAIによる推論モデルの処理性能を、2018年夏に10倍、2019年末にさらに10倍、2021年にさらに10倍にして1000倍を目指すという。
ルネサス エレクトロニクスは2018年1月30日、東京都内で産業機器ユーザー向けのパートナーイベント「R-IN Consortium Forum 2018」を開催。同イベントに併せて、産業機器を含めた同社の汎用事業を統括する執行役員常務 兼 インダストリアルソリューション事業本部 本部長の横田善和氏がメディア向けの会見を行った。横田氏は、成長のドライバーに位置付ける組み込みAI(人工知能)技術「e-AI」をさらに強化する方針を示した上で「現在のMCU/MPUを用いた組み込みAIによる推論モデルの処理性能と比べて、2018年夏に発売する『RZファミリ』の新製品で10倍、2019年末までに投入する次世代品でさらに10倍、2021年を予定している製品ではさらに10倍とし、3年で処理性能を1000倍に引き上げる」と強調した。
「工場の現場はAIを導入したいがやり方が分からない」
今回のイベントの主体となるR-INコンソーシアムは、工場で用いられるFA機器をはじめとする産業機器の顧客に対して、ルネサスとパートナーがコラボレーションを創出していくためのパートナープログラムだ。2015年4月に会員企業数26社で発足したが、2018年1月時点で67社まで増えている。
ルネサスが、産業機器向けの事業展開で成長のドライバーに位置付けるのがe-AIだ。2017年4月に発表した段階では、クラウドやサーバなどで機械学習や深層学習(ディープラーニング)によって得た学習済みアルゴリズムを、同社のMCU/MPUに推論実行エンジンとして容易に組み込めることを特徴としていた。「工場における自動化などリアルタイム性が求められる用途では推論実行エンジンを機器に組み込む必要がある。AIの需要はクラウド、エッジなどの『IT(情報技術)』だけでなく、エンドポイントの『OT(制御技術)』で生まれつつあるのだ。実際に、工場の現場はAIを導入したいと考えているが、ITの領域にあるためやり方が分からないという話をよく聞く。e-AIはその悩みを解決するソリューションだ」(横田氏)。
今回発表したe-AIの強化施策は、OTの組み込みAIにおける推論実行への要求性能の高まりに対応するためのものだ。そこで重要な役割を果たすのが、動的に再構成が可能なプロセッサ技術「DRP(Dynamically Reconfigurable Processor)」である。DRPは1クロックごとに、演算回路の構成を動的に変更できる技術だ。機械学習や深層学習から得られた推論実行エンジンに用いられているCNN(畳み込みニューラルネットワーク)などは、従来の演算処理に比べて複雑だが、動的に演算回路を変更できるDRPを適用すれば、一般的なプロセッサ技術による演算処理よりも動作周波数当たりの消費電力を抑えられる。横田氏は「発熱と消費電力に対する要求が厳しい組み込みシステムにおいて、ハードウェアの規模をコンパクトにしながらAIの処理性能を高められる有効な技術だ」と説明する。
ITのAIはNVIDIAやインテルなど多くの企業が競争中だ。ルネサスは、ITのAIの競争には参加せず、OTのAIに注力する。ただし、ITのAIに対してOTのAIの処理性能は1000分の1〜100万分の1という開きがある。DRPは、この開きを縮めるための重要な技術だ(クリックで拡大) 出典:ルネサス エレクトロニクス
ルネサスはこれまで、特定の顧客にのみDRPを提供してきた。今後は、e-AIを強化するためにDRPを汎用製品に取り込んでいくことになる。2018年夏に予定している「RZ/Aシリーズ」の新製品では、現行製品と製造プロセスを変えずにDRPを搭載することにより、組み込みAIの処理性能10倍を実現する。また、e-AIはMCU/MPUのソフトウェア開発キット(SDK)と、ルネサスが無償提供する推論実行エンジンの実装ツールによって容易に組み込めることが特徴になっているが、「DRPを搭載するRZ/Aシリーズでも、推論実行エンジンの実装が容易という特徴を実現できるような開発環境やツールを準備している。一般的な組み込みソフトウェア技術者に扱ってもらうことを前提としたものだ」(横田氏)という。
2019年末をめどに開発を進める次世代品は、DRPのエレメント数を増やすなどして処理性能10倍を実現する。製造プロセスについては、その時点で量産しているMCU/MPUと同じものを用いる。そして2021年予定の製品は、DRPの機能向上に加えて、より先進的な製造プロセスの導入も視野に入れて処理性能10倍を果たすとしている。
1000倍の組み込みAIの処理性能によって実現できることについては「現在のe-AIの推論実行エンジンでは、振動などの波形データを用いている。処理性能が上がれば、画像データを扱えるようになり、さらにはそのフレームレートも高められる。例えば、熟練工のノウハウをエンドポイントで自動化できるようになる。1000倍ともなれば、現在はエンドポイントでは難しいとされる学習も行えるようになるだろう」(横田氏)。
また、処理性能1000倍を実現する2021年ごろをめどに「e-AI関連で100億円単位の売り上げ貢献を目指したい」(同氏)とした。
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