完全自動運転トラックで“社会の血液”をサラサラに、レベル3は「重要度低い」:自動運転技術
UDトラックスは2018年12月12日、埼玉県上尾市にある同社の敷地内において、大型トラックをレベル4の自動運転で走らせるデモンストレーションを実施した。UDトラックスを傘下に持つボルボグループで、自動運転車両開発部門のバイスプレジデントを務めるヘンリック・フェルンストランド氏は、「完全自動運転の実用化は乗用車よりも商用車が先になる」と述べた。トラックの自動運転化により、スマートロジスティクスの実現を目指す。
物流は社会の血液です――。UDトラックスは2018年12月12日、埼玉県上尾市にある同社の敷地内において、大型トラックをレベル4の自動運転で走らせるデモンストレーションを実施した。UDトラックスを傘下に持つボルボグループで、自動運転車両開発部門のバイスプレジデントを務めるヘンリック・フェルンストランド氏は、「完全自動運転の実用化は乗用車よりも商用車が先になる」と述べた。トラックの自動運転化により、スマートロジスティクスの実現を目指す。
その理由は、大型トラックが走る港湾や工場の敷地、物流施設といったエリアは一般の歩行者や車両が立ち入らないため、自動運転車を走行させるための限定領域を設定しやすいことにある。また、トラックのユーザーである企業にとって、稼働率の向上や、燃料費の削減、人手不足の解消といった費用対効果が明確なことから、商用車は乗用車よりも自動運転が普及しやすいと見込む。
レベル4の自動運転車でノウハウや技術を蓄積し、港湾と付近の工業地帯、工業地帯から高速道路へとつなげるなどして、走行範囲に制限のないレベル5の自動運転に近づけていく。2019年はトライアルが中心となる。2020年までに特定用途での実用化を目指し、2030年に完全自動運転トラックを量産する計画だ。
限定領域を作りやすいことが決め手に
デモンストレーションを行ったのは、同年4月に発表した2030年に向けた技術ロードマップの中で開発を進めている自動運転システムだ。環境を認識するセンサー類は車両のフロント側にしかついていないが、GPSによる位置情報や事前に設定した走行ルートを基に、後退による駐車でもスムーズに行う。センサーやコンピュータなどシステムの構成は、限定領域を定義する条件次第だという。
例えば、一般の歩行者や車両が立ち入らない場所で、なおかつ構内の通行ルールを理解したドライバーしかいない環境であれば、イレギュラーな事態が発生しにくい。そういった場所を限定領域とするなら、システムの構成はシンプルにすることができるとしている。
デモ用の車両は、LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)や単眼カメラ、ミリ波レーダーを装着していた。本社での自動運転の実演では、自車位置の測位にGPSしか使用していなかったが、今後の実証ではRTK(リアルタイムキネマティック)も併用することで、信頼性を確保する。
物流網全体の効率化を推し進めるため、トラックに高度な自動運転技術を採用するだけでなく、通信機能も搭載を増やす。既に、2006年から通信機能の搭載を進めており、日本と一部海外で5万台まで普及させた。今後、2025年までに“つながるトラック”を15万台まで増やす。車両の稼働率向上や運行管理、品質向上に活用する。将来的には、トラックと物流拠点を通信で連携させることを目指している。
自動運転レベル4の大型トラックがどのような価格になるかは「まだ分からない」という。「車両価格だけでなく、全体の費用を見るべきだ、燃料コストや労務費、ドライバーの負担を減らし、稼働時間を大幅に増やし生産性を向上することができる」(UDトラックス 開発部門 シニアバイスプレジデントのダグラス・ナカノ氏)。
乗用車の自動運転は主なメリットが快適性になるが、商用車の場合は先述したように自動運転化による恩恵が明確だという。商用車が乗用車よりも自動運転技術の実用化が早くなるもう1つの理由は、車種やプラットフォームの少なさがあるという。乗用車ほどパターンが多くないため開発しやすいという。
それだけでなく、車両の大きさや重量に起因する車両制御の難しさや、積み荷の有無によって車重が変わる点、隊列走行中の後続車両のトラブルへの対処など、商用車の自動運転化に特有のポイントについても検証しながら開発を進める。
UDトラックスが属するボルボグループは、商用車以外にも建機や農機などブランド横断で自動運転技術を展開する。
ボルボはトラックを売るだけでなくモノを運ぶサービスも提供
ボルボグループでは、UDトラックス以外のブランドも自動運転トラックを使った実証を進めている。例えば、サトウキビ畑ではトラックが走行した時に誤って作物を踏んで走行してしまうことで10〜20%の損失が出ていた。自動運転トラックを導入することにより走行の軌跡が正確になった他、損失を減らし、収穫の管理も効率化を図れたという。今後さらに導入する自動運転トラックの台数を増やすとともに、走行実績は開発に反映する。
また、ノルウェーの鉱山では、採石を運ぶトラックを売るのではなく、ボルボとして採石を運ぶサービスを始めた。トラックの販売を取りやめるわけではないが、輸送をサービス、ソリューションとして提供することを事業の方向性の1つとしていく。
こうした自動運転トラックの実証を進めていく中で、フェルンストランド氏は「レベル3の重要度は低い」と断言した。ドライバーが運転席に座っていることが必須なのは、メリットが少ないとみている。レベル5の無人運転については、「今の技術では達成するのが難しい」(同氏)とし、限定領域で走行するレベル4に集中して取り組む方針だ。日本で商用車メーカー4社が協力して取り組む隊列走行も、重要な技術と位置付ける。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 自動運転車や電動車を買うメリットはあるか、商用車で問われる“事業化”
商用車には“事業化”の視点が重要――。自動運転車や電動車を普及させる時、商用車で特に重視されるのが、事業化だ。商用車メーカーにとって収益性が確保できるかではなく、トラックやバスのユーザーにとって自動運転車や電動車を使うことが事業面でプラスになるかどうかが問われる。 - 「とんでもない量のデータが集まっている」、つながる商用車で事業を変える日野
日野自動車は2018年10月30日、東京都内で決算会見を開き、2025年に向けた経営方針を発表した。これまでは新車販売が事業の中心だったが、購入後のメンテナンスも事業の柱の1つとして育て、市場動向に左右されにくい収益構造をつくる。 - 日野とVW商用車部門が協業、「トラックやバスだから協力できることがある」
日野自動車とVolkswagen Truck & Busは、戦略的協力関係の構築で合意した。資本提携については現時点では予定していないという。 - ドライバー急病時に大型バスを自動停止、日野が2018年夏から標準装備に
日野自動車はドライバー異常時対応システムを2018年夏から大型観光バス「セレガ」に標準搭載する。ドライバーの急病などを原因とする事故で被害を最小限にとどめるため、異常発生後にいち早く車両を停止させる。 - 米国向け大型燃料電池トラックに改良版、走行距離は320kmから480kmに
トヨタ自動車は2018年7月30日(現地時間)、自動車産業の課題や米国経済への影響を研究、分析するCenter for Automotive Researchのイベントにおいて、走行距離を延長した大型トラックタイプの燃料電池車(FCトラック)の改良版を公開したと発表した。カリフォルニア州で行っている実証実験に、2018年秋から改良型を追加導入する。 - 商用車で進む電動化、物流や工場輸送の在り方を変えるか
政府の規制方針などにより自動車メーカーの電動化への取り組みが加速している。ただ、より切実なニーズを持つのが商用車である。東京モーターショーでは各社のトップが電動化への取り組み方針を示した他、三菱ふそうといすゞ自動車が新製品をアピールした。 - 2020年に10万人不足するトラックドライバー、自動運転は物流を救えるか
DeNAと共同で新しい物流サービスの開発に取り組むなど、自動運転技術の活用に積極的なヤマト運輸。ヤマトグループ総合研究所の荒木勉氏が、自動運転技術がもたらす物流サービスの可能性や物流業界の将来の課題について説明した。 - 乗り比べて分かった、三菱ふそうとUDトラックスの「思想」の違い
三菱ふそうトラック・バスが21年ぶりに「スーパーグレート」を、UDトラックスは13年ぶりに「クオン」をフルモデルチェンジした。現場の声を踏まえて大型トラックはどう変わったのか解説する。