「とんでもない量のデータが集まっている」、つながる商用車で事業を変える日野:製造マネジメントニュース
日野自動車は2018年10月30日、東京都内で決算会見を開き、2025年に向けた経営方針を発表した。これまでは新車販売が事業の中心だったが、購入後のメンテナンスも事業の柱の1つとして育て、市場動向に左右されにくい収益構造をつくる。
日野自動車は2018年10月30日、東京都内で決算会見を開き、2025年に向けた経営方針を発表した。これまでは新車販売が事業の中心だったが、購入後のメンテナンスも事業の柱の1つとして育て、市場動向に左右されにくい収益構造をつくる。コネクテッドサービスを活用した故障予知などにより、系列の販売店で行う車両の整備台数の比率(入庫率)を現状の3割から2025年度には5割に増やす。
2025年度は、売上高を2017年度比38.8%増の2.5兆円に、営業利益は同3倍の2500億円を目指す。営業利益率は10%を目標とする。
1台1台に的確なタイミングでメンテナンスを
2025年に向けて、新車ビジネスと保有ビジネス、ソリューションビジネスの3つで持続的な成長が可能な事業構造を目指す。年間販売台数を現状の1.6倍に増やしながら、整備など購入後のサポートを厚くすることで保有台数も増やす。ソリューションビジネスでは、ドライバー不足の解消や輸送効率の向上に取り組む。
商用車のメンテナンスは、乗用車と同様に、車両を購入したディーラー以外で行うことがある。ユーザー企業が自社の整備部門で整備を行うケースもある。日野自動車の場合は、海外では新車売り切り型のビジネスがメインとなっていることもあり、グローバルでの整備入庫率は3割にとどまっていた。今後、ユーザーや車両の情報を積極的に活用することにより、日野自動車の販売店への入庫を増やす。整備台数の増加に対応するため、整備士の育成や整備拠点のリニューアルも推進する。
ユーザーや車両の情報は、2018年4月から開始したコネクテッドサービス「HINO CONNECT」を通じて収集する。同サービスでは中・大型トラックに通信端末を標準搭載にしている。衝突回避ブレーキやドライバーモニターの作動状況、省燃費運転のレポートといった運行管理を提供するだけでなく、車両情報を日野自動車で蓄積し、的確なタイミングでのメンテナンスの提案につなげる。故障の予兆を踏まえた予防整備は間もなくスタートする。将来的にはジャストインタイムでのメンテナンスを提供していく。
HINO CONNECTを開始して半年が経過した現在、「とんでもない量のデータが入ってきている」と日野自動車 社長の下義生(しも よしお)氏は説明した。
「それらのデータを車両開発にフィードバックすることに加えて、『あと何カ月でこの部品の交換が必要だ』と1台1台に提案できるようにしていきたい。交換部品がジャストインタイムで用意できれば在庫の効率化も図れる。予防整備のメリットが大きくなるのは、故障すると費用が高額になる部品だ。壊れる前に対策して寿命を延ばすことができれば、予防整備の価値がある。お客さまにとってメリットのある部品から予防整備を提案していきたい。決して、われわれが寿命を分析しやすい部品から始めるのではない。部品は交換の目安となる期間があるが、実際は走り方によって交換のタイミングが変わってくる。収集した車両のデータから、部品の寿命を高精度に推定する必要がある。あと2カ月と伝えたのに半年も持つのではお客さまに受け入れられない」(下氏)
デジタル活用で開発期間を半減
新車販売を現状の18万台から2025年度に30万台に増やすため、開発や生産、調達の効率化も推進する。開発面では、既存の技術領域の開発期間を短縮し、捻出した余力を先進分野に振り向ける。架装も含めた一括企画やモデルベース開発、3Dデータの活用といったデジタル開発により、開発期間の半減を目指す。
モデルベース開発は「マツダに随分教えてもらっている」(下氏)。現在、開発の初期や、実機を作る前の性能検証でシミュレーションを活用し始めているという。「電動車の一括企画で、デジタルの段階で架装も含めて相当作り込めると、開発の初期段階で課題を洗い出して対応できるので理想的だ」(同氏)。
地域ごとに車両開発の役割も分担する。日本は基礎技術や基本となるモジュールを、タイではASEAN向けの車両を、米国では北米専用車を担当する。中国は、地域に最適な車両の開発に加えて、自動運転や電動車など先進技術の実証も担う計画だ。日本国内での自動運転の実証、開発も継続する。
開発や部品の調達にはアライアンスも活用する。Volkswagenグループの商用車ブランドを統括するTRATON(旧社名Volkswagen Truck & Bus)とは、部品調達の合弁会社を2019年に設立する。また、電動化技術の共同開発を行うことも公表している。協業は2025年の収益に大きな効果が出てくる見通しだ。また共同開発する技術は、既存分野は2020〜2021年に、先進分野は2023年以降に成果が出るという。
この他にも、インドの商用車メーカーAshok Leylandとの協業を活用し、新興国で生産される部品の採用も拡大する。
関連記事
- 日野とVW商用車部門が協業、「トラックやバスだから協力できることがある」
日野自動車とVolkswagen Truck & Busは、戦略的協力関係の構築で合意した。資本提携については現時点では予定していないという。 - 大型トラックに“元を取れる”ハイブリッドモデル、高速道路での燃費を改善
日野自動車は2018年7月17日、同社羽村工場で説明会を開き、2019年夏に大型トラック「プロフィア」のハイブリッドモデルを発売すると発表した。高速道路が大半のルートで走行しても、ディーゼルエンジンモデルと比較して燃費値を15%改善できる。商用車の中でも燃料の消費量が多い大型トラックの燃費を向上させることにより、商用車全体のCO2排出量削減につなげる。 - ドライバー急病時に大型バスを自動停止、日野が2018年夏から標準装備に
日野自動車はドライバー異常時対応システムを2018年夏から大型観光バス「セレガ」に標準搭載する。ドライバーの急病などを原因とする事故で被害を最小限にとどめるため、異常発生後にいち早く車両を停止させる。 - EV化進む小型トラック、プラットフォームはEV専用? 既存モデルと共通?
「人とくるまのテクノロジー展2018」に出展した商用車メーカーに小型電動トラック開発の取り組みを聞いた。 - 日野とVW商用車部門は電動化技術を共同開発、調達の新会社も
日野自動車とVolkswagenグループの商用車ブランドを統括するTRATON(旧社名Volkswagen Truck & Bus)は2018年9月19日、電動化技術の共同開発と部品調達の合弁会社の設立について発表した。合弁会社は、2019年後半の設立を目指す。 - モデルベース開発は単なる手法でなくモノの考え方、マツダ流の取り組みとは
マツダは2021年に向けて、エンジンや電動パワートレイン、プラットフォーム、デザインなど、さまざまな分野の取り組みを同時並行で市場投入する。「今後の研究開発計画を、今の人数でなんとかこなせるのはモデルベース開発を取り入れているから。単なる開発手法ではなく、ものの考え方だ」と同社 常務執行役員 シニア技術開発フェローの人見光夫氏は説明する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.