「やっちゃいけないって言われてない」、作業指示はどこまで必要なのか:製造マネジメントニュース
日産自動車は2018年12月7日、完成検査の不適切な取り扱いに関して新たにリコールを届け出ると発表した。これまでの完成検査問題を受けて再発防止策の浸透を自主点検する中で、合否判定が不明確な可能性のある検査を実施していたという証言を完成検査員から得られたため、リコールを実施する。
日産自動車は2018年12月7日、完成検査の不適切な取り扱いに関して新たにリコールを届け出ると発表した。これまでの完成検査問題を受けて再発防止策の浸透を自主点検する中で、合否判定が不明確な可能性のある検査を実施していたという証言を完成検査員から得られたため、リコールを実施する。
リコールの対象台数は約15万台で、2017年11月7日〜2018年10月25日に生産された10車種が該当する。追浜工場で生産する「ノート」「リーフ」「ジューク」「シルフィー」「キューブ」「マーチ」、オートワークス京都で生産する「アトラス」「シビリアン」やいすゞ自動車向けに供給する「エルフ」「ジャーニー」、三菱ふそうトラック・バス向けに供給する「キャンター・ガッツ」が対象車種となる。日産自動車は2017年10月以降、一連の問題で合計42車種、114万3540台にリコールを実施している。
今回判明したのは、後輪ブレーキや駐車ブレーキ、ステアリングの切れ角、スピードメーター、サイドスリップの不適切な検査だ。背景には、完成検査工程において完成検査員の動作に関する解釈に余地が残されていたことや、禁止事項についての理解不足があったとしている。
今回判明した一部の行為について、検査員は不適切だという認識を持っていなかったという。「そのため、聞き取り調査の中で『ルール通りにやっていなかったことはないか』と尋ねても証言が得られなかった。禁止事項を具体的に挙げて質問していた訳でもなかった。検査中に車両の挙動に不安を感じた結果、不適切な行為につながっていた事例もあった。また、発生する頻度が低く、監督者による作業観察の中で不適切な検査の場面に出会わなかったため、このタイミングで判明した」(日産自動車)。
具体的には次のような行為について、日産自動車は追浜工場とオートワークス京都の完成検査員から証言を得た。その結果、合否判定が不明確で品質が確保されない可能性があるため、リコールを実施する。
- 後輪ブレーキの制動力の検査において、本来は操作しない駐車ブレーキレバーを使用する
- 駐車ブレーキの制動力の検査において、本来は操作しないブレーキペダルを使用する
- ステアリングの切れ角の検査において、社内基準値内に収めるため、最後にステアリングを戻していた他、本来はステアリングがまっすぐな状態から始めるべきところで最初にステアリングを切ってから測定を開始していた
- スピードメーターの検査で時速40kmを維持して測定すべきところ、時速40kmに到達した瞬間に測定した
- サイドスリップの検査において、社内規定の時速5kmを若干超える時速6〜8kmで測定していた。
再発防止策の強化のため、完成検査工程における禁止事項の周知、作業内容に対するチェック機能の強化、不適切な検査が行われないための物的対策を実施する。完成検査工程の内容を示した標準作業書に禁止事項の記載を追加し、確認と教育を実施する。完成検査員の任命のための教育でも禁止事項について指導する。「やるべきことは教えていたが、やってはいけないことが教えられていなかったのが今回の要因」(日産自動車)だとする。また、作業観察を見直し、標準作業を順守しているかどうかだけでなく、禁止事項など不適切な作業を行っていないかどうか監視することとした。
チェック面では、検査員の作業観察を行い、検査員の相談を受け付ける作業監視員を検査ラインに新たに配置する。また、標準作業の手順が順守されているかを確認するカメラも検査ラインに設置する。
物的対策としては、標準作業を満たさない場合に自動的に検査を無効にする制御機能を追加する。ステアリングの切れ角の検査については、社内の規格を見直す。サイドスリップ検査装置では通過する際の車速を測定し、規定内かどうかを検証する。
日産自動車は、一連の完成検査問題を受けて、職場環境の改善や老朽化した検査設備の更新などを対象に、今後6年間で1700億〜1800億円の投資を計画している。また、人手不足による不適切行為が繰り返されるのを防ぐため、生産技術など工場の人員を2018年度で670人増員する。この計画を「まっしぐらにやっていきたい」(日産自動車)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 6年間で1800億円投資、生産現場に670人増員で再出発、日産の完成検査問題
日産自動車は2018年9月26日、横浜市の本社で会見を開き、同年7月に公表した完成検査の不適切な行為について、国土交通省に報告した調査結果を説明した。日産自動車と第三者機関による調査の結果、完成検査における排ガスと燃費の抜き取り測定試験以外にも、精密車両測定検査と呼ばれる工程で、測定の未実施、測定値や試験条件の書き換えが行われていることが分かった。 - 高まる測定データ保全の必要性、“データインテグリティ”確保を行うべき
化学分析装置などを提供するアジレント・テクノロジーは2018年12月5日、東京都内で記者向け説明会を開催し、2017年に改訂したISO/IEC 17025:2017の変更内容や、ISO/IEC 17025の準拠にあたり重要な「データインテグリティ」について解説を行った。 - データ偽装を防ぐには? まずは紙とハンコの文化から脱却を
2016年以降、自動車や素材など製造業でデータ偽装事件が相次いだ。データの改ざんを防ぐには、企業体質の改善だけでなく、データを改変できない環境づくりを進める必要がある。 - 三菱電機子会社、不適切検査を発表――該当製品は253種783万個にも
三菱電機と同社子会社のトーカン(千葉県松戸市)は2018年12月4日、トーカンが製造したゴム製品の一部において、顧客仕様を満足しない、または検査未実施で出荷を行っていたことを発表した。 - 第2のダンパー不適切検査、「改ざんに指示なかった」が不正は続いた
国土交通省は2018年10月23日、光陽精機が製造し、川金コアテックが販売する免震・制振用オイルダンパーの一部で検査データの改ざんがあったと発表した。 - 全てデータ調べたはずが残っていた、国交省がスズキに遺憾の意
国土交通省は2018年9月26日、スズキに対し、完成検査に関する不適切事案の徹底調査と、再発防止策の策定を自動車局長名で指示した。同年8月末の国土交通省の立ち入り検査を踏まえてスズキが改めて社内調査を実施したところ、新たに482台のトレースエラーがあったことが判明した。測定値や試験条件の書き換えや、データが残っていないと説明した二輪車についてもトレースエラーが見つかった。 - 日立化成の不適切検査、「2008年問題」にその原因を見る
日立化成は2018年11月22日、複数の同社製品で不適切検査が行われた事案について、外部専門家等で構成する特別調査委員会から調査報告書を受領したと発表した。また、同社は同日に東京都内で記者会見を開催し、同事案に関する顧客対応などの現状と再発防止策などを説明した。 - KYBの不適切検査、見えてきたデータ改ざんを犯す動機
KYBによる免震・制振用ダンパーの不適切検査が発生した問題で、同社は2018年10月19日、国土交通省で記者会見を行い、検査データ改ざんを行った動機を説明した。