KYBの不適切検査、見えてきたデータ改ざんを犯す動機:製造マネジメントニュース
KYBによる免震・制振用ダンパーの不適切検査が発生した問題で、同社は2018年10月19日、国土交通省で記者会見を行い、検査データ改ざんを行った動機を説明した。
「生産計画を守りたいという思いから、余分な工数となる(不適合製品の)再調整作業を省く目的があった」
KYBによる免震・制振用ダンパーの不適切検査が発生した問題で、同社は2018年10月19日、国土交通省で記者会見を行い、検査データ改ざんを行った動機を説明した。同日に、問題の免震・制振用ダンパーが利用されている70物件を公表。記者会見が行われた国土交通省の建屋(中央合同庁舎第3号館)にも、検査データを紛失したため基準適合が不明の免震ダンパーが納入されていた。
今回の不適切検査では、基準値に対して設定された2つの許容範囲が重要なポイントとなる。1つは、免震ダンパーの大臣認定品減衰性能で規定される±15%許容線、もう1つは顧客との契約で規定される±10%許容線だ。
これら2つの許容線に対して、以下のような不適切検査が行われた。
- ±15%許容線から外れていた製品を、±10%許容線内に書き換え
- ±15%許容線内にはあるが±10%許容線から外れていた製品を、±10%許容線内に書き換え
- 検査データの紛失による、製品の基準適合確認の不能や遅れ
1点目、2点目の検査データ改ざんでは、加振試験で不適合だった場合に、試験機の波形処理設定で係数を入力し、適合する波形に改ざんしていた。カヤバシステムマシナリー社長の広門茂喜氏は「検査で不適合が見つかった場合は、製品を分解し、時間をかけて正しい値に調整しなければならない。しかし、その作業を怠ってしまった」と説明する。その理由として、「不適合品の分解と調整に必要な作業時間が当時は5時間程度であり、(不適合品が発生すると)生産計画や日程計画をキープできないという思いがあった」ことを挙げた。
3点目の検査データ紛失については、「古い製品については、当時の検査データを見つけることが出来なかった。最近の製品についても、係数を入力したかの判定ができなかったものがある」(斎藤氏)とし、2000年初期以前の製品については、検査データの確認を行うことが困難と説明した。検査結果は、シリアル番号と検査担当者名、そして係数といった情報とともに紙媒体に記録していたという。
不正が行われた免震・制振用ダンパーの性能検査の健全性担保については、社内認定制度を設けることで検査従事者を教育したとするが、「定期的、システム的に検査健全性をチェックする仕組みはなく、結果的に係数書き換えを見抜くことができなかった」(斎藤氏)と話した。
基準適合内の製品でも改ざんを行ったことを新たに認める
また、今回の記者会見では、正規の検査工程で既に基準に適合していた免震・制振用ダンパーにおいても、さらに108件で検査データを改ざんしたことが発覚した。この場合、大臣認定品基準、顧客契約基準をともにクリアしているため性能面で問題はないと説明するが、倫理的な問題は依然として残り続ける。
なぜ、適合品についても検査データを改ざんしたのか。KYB専務の斎藤圭介氏は「試験結果のバラつきが大きくなったときに、バラつきを小さく見える操作をしていた。許容範囲の上限や下限に近い検査値を出した場合、なぜこのような値が出たのかという質問が当時(同社内で)あったようだ。ここからも基準値に近づけたいという思いがあった」と説明した。
内部告発は組み立て担当の元社員
本件が白日のもとにさらされる契機は、カヤバシステムマシナリーで組み立てを担当していた元従業員の内部通報だ。同社は2018年8月に内部通報を受けたとされるが、社内調査を実施し検査データの書き換え禁止を指示したのは9月8日、国土交通省への報告は9月19日となった。
記者会見では、内部告発から公表に至るまでの対応の遅れを問う質問が多く見られた。同社は初動の遅れを認めつつ、「問題発覚後、当事者からその上長、工場長などを対象とした人の聞き取り調査に注力し、その後にモノの確認を行った。この結果、多くの時間を要してしまった」と釈明した。
なお、内部通報者は同年9月に、本人の意向で退職済みであることも明かされた。不適切検査に関与したカヤバシステムマシナリーの従業員の処分については、「KYBとの相談で決定する」(広門氏)とした。
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