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6年間で1800億円投資、生産現場に670人増員で再出発、日産の完成検査問題製造マネジメントニュース

日産自動車は2018年9月26日、横浜市の本社で会見を開き、同年7月に公表した完成検査の不適切な行為について、国土交通省に報告した調査結果を説明した。日産自動車と第三者機関による調査の結果、完成検査における排ガスと燃費の抜き取り測定試験以外にも、精密車両測定検査と呼ばれる工程で、測定の未実施、測定値や試験条件の書き換えが行われていることが分かった。

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日産自動車 チーフコンペティティブオフィサー(CCO)の山内康裕氏

 日産自動車は2018年9月26日、横浜市の本社で会見を開き、同年7月に公表した完成検査の不適切な行為について、国土交通省に報告した調査結果を説明した。日産自動車と第三者機関による調査の結果、完成検査における排ガスと燃費の抜き取り測定試験以外にも、精密車両測定検査と呼ばれる工程で、測定の未実施、測定値や試験条件の書き換えが行われていることが分かった。

 抜き取り検査における不適切行為の再発防止策として、現在、管理者の立会いや検査員の増員、測定装置のプログラム変更による書き換え防止などの緊急措置を実施中だ。今後も、人員配置やオペレーションの見直し、検査装置の整備、コンプライアンス意識の徹底などに取り組む。職場環境の改善、老朽化した検査設備の更新などを対象に、今後6年間で1700億〜1800億円の投資を計画している。また、人手不足による不適切行為が繰り返されるのを防ぐため、生産技術など工場の人員を2018年度で670人増員する。

「保安基準を満たしているから……」

 精密車両測定検査は完成検査で行う工程の1つで、22項目ある。不適切な行為が判明した項目は下表の通り。台数では253台に上る。検査が正しく行われていなかった期間については、検査員の記憶や証言にのみ基づいており、正確には把握されていない。

 なお、全ての項目において、精密車両測定検査の検査規格や、保安基準に適合することを確認済みであるという。日産自動車で定めた検査規格は保安基準よりも厳しい水準となっている。日産自動車 チーフコンペティティブオフィサー(CCO)の山内康裕氏は、「保安基準を満たしていれば法令の範囲内には入る、検査規格から外れる数値を少しくらい書き換えてもいいのではないか」と軽視する傾向が現場にあったとみている。

調査結果 対象の検査 備考
試験の不実施 ブレーキ液残量の警告灯 1人ではできない作業があるにもかかわらず、検査員が1人しかいなかった
試験の一部不実施 車外騒音 車両の輸送記録と検査報告書が一致していなかった
最大安定傾斜角度 抜き取り検査の対象車両を検査のために確保する計画ができていなかった
検査規格を逸脱した場合の測定値書き換え トーイン、キャンバ、キャスタ サイドスリップの測定値が検査規格を満たすことを確認した上で、対象検査の測定値を書き換えた。トーイン、キャンバ、キャスタは保安基準に含まれない
前照灯の照射方向 前照灯の照射方向が逸脱した場合、調整して再測定した。再測定の数値を検査結果とした
全幅 1695mmを基準に1680〜1698mmの範囲に収める検査規格に対し、全幅が1699mmだった車両の数値を書き換えた
警音器の音量 検査規格を1dB程度逸脱した場合に書き換えた。なお、検査規格は法規制値よりも厳しい基準となっていた
ハンドルの最大回転数 ハンドル最大回転数が影響するタイヤ切れ角については全数検査済み
ブレーキペダルの踏みしろ、駐車ブレーキの引きしろ 検査規格で定めた数値や、検査結果の記録用紙に印字された基準値に誤りがあった。いずれも訂正済み
試験条件の書き換え、逸脱 車外騒音 風速毎秒5m以下で測定すべきところ、これを上回っても試験を実施し、測定記録には風速毎秒5m以下と記載した
重量測定 ガソリンを充てんして測定すべきところ、ガソリンを入れていなかった

 生産拠点別では、253台のうち、追浜工場が81台、日産車体九州が52台、日産車体湘南工場が44台、オートワークス京都が76台で、九州工場と栃木工場がゼロだった。九州工場は2018年7月に公表した完成検査問題でも唯一不正が起きていなかった。

 その要因としては、抜き取り検査を経験した工長がいたことが大きいという。検査員の作業観察や教育を徹底しており、工程についてもよく理解していたため、再検査をすべきポイントや、再検査が実施されていない不備を把握できていた。こうした経験のある工長が配置されていたのが九州工場のみだった。

 それ以外の生産拠点では、抜き取り検査の実施が全て検査員にゆだねられており、工長による管理や監督が行き届いていなかった。従って、抜き取り検査の不適切な行為についても把握されていなかった。また、抜き取り検査を確実に行うための検査員向け教育はOJT(現任訓練)となっていたが、十分な知識や経験を持つ工長がいないため機能していなかった。検査員は、先輩から不適切な方法を伝授されていた。

 さらに、人員不足であるだけでなく、抜き取り検査にやり直しが発生しないことを前提とした要求量となっており、想定外の負荷がかかり得る状況だったとしている。さらに、計画通りに生産、出荷することが優先されており、完成検査自体が軽視され、再検査による出荷の遅延を懸念する風潮もあった。

 今後は工長に登用する人数を増やし、現場の仕事をしっかり観察する時間を持てるよう、仕事の内容や範囲を定義しなおしていくという。また、抜き取り検査で使用する測定・検査装置は、逸脱した試験条件で測定したデータを自動的に無効化したり、測定結果や試験条件、測定データを確実に保存・管理したりできるようにする。その他の計測についても、自動化できるか検討を進めていく。

コストダウン自体は必要なことだが

 会見で山内氏は、コストを重視することが、現場管理の不在や不十分な人員体制の1つの要因となっていたと説明。「製造業として、コストダウン自体は不可欠だ。(日産自動車 取締役会長の)カルロス・ゴーン氏が着任して以降というのではなく、コストダウンは不断の努力が求められることだ。ただ、何をしてでもコストを下げる風潮から不正に結びついたり、優先順位を間違ったりしてはいけない」(山内氏)とも強調した。

 今後6年間の1700億〜1800億円の対策費用や増員などのコストが1台当たりの車両にどのように跳ね返るかは「計算していない」(山内氏)と明言せず、品質に関しては工場で管理するコストの中でも別建てで扱うべきだとコメントした。

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