トヨタは電気自動車「eQ」で何を反省したか、今後に何を生かすのか:電気自動車(2/2 ページ)
「ハイブリッド車で20年間培ってきた要素技術が、EV開発での競争力の源泉になる」と繰り返し説明してきたトヨタ自動車。2017年11月27日に開催した技術説明会で、あらためて電動化に対する取り組みを語った。
「EVは近距離用」という押しつけ
複数の電動パワートレインに全方位で取り組んでいくトヨタ自動車は、用途や走行する距離ごとにパワートレインのすみ分けが進むと想定している。乗用車全般はHVやPHV、中長距離はFCV、そして近距離用をEVとする。新エネルギー車のPHVとEVに同等の購入補助金を支給する中国の上海ではPHVの比率が7割と高く「補助金に差がつかなければ(乗用車として)PHVが有利」(安部氏)となっている。
EVの電池残量に対するドライバーの不安感や、給油と比較した充電の時間や頻度を踏まえると、EVを支障なく使える領域は近距離にとどまるという考えだ。安部氏は「走行距離が400kmになっても、EVはまだ普通のクルマではない」という。
「エンジン車で給油ランプが点灯しても、後何kmかは走れるという安心感がある。しかし、EVの電池の残量が少なくなるとそうはいかない。高速道路で踏み込むような走り方をするとエンジン車でも燃料を使うが、EVの走行距離は大きく目減りする。充電にかかる時間や充電の頻度も、ガソリンスタンドに行く頻度と比べると利便性に課題がある」(安部氏)
eQも、このすみ分けに従って近距離用を前提に開発した。「eQの開発当時、EVはバッテリーのコストの高さや重さ、効率の悪さ、充電時間の長さが課題だったので、対策として小さいバッテリーを使うことを選んだ。小さいバッテリーならば小さいボディーが必要で、それ見合った電動システムで……と開発した」(安部氏)。
開発の意図とユーザーの考え方は違った。「もっと長い距離を走りたいという声もあったし、小さいクルマに乗りたい人ばかりではない。クルマは使いたい目的のために選んで決めるものだ。トヨタが“近距離用で”と限定して押しつけるべきではなかったし、我慢して使ってもらうやり方は自動車メーカーとして反省しなければならない。便利に走れるEVを開発していかなければならない」(安部氏)。
パワートレインのすみ分けは残るものの、便利に走れるEVを、使い方に合わせて選べるように開発するというところに、相次ぐ協業の狙いも見えてくる。「われわれだけでEVを開発してもビジネスとして苦しい。その悩みは各社共通なので、他社と協力していく」(安部氏)。
マツダやデンソーと共同出資で設立した開発会社では、EV開発のベースとなる基本構想に関する技術を開発する。トヨタ自動車と比べて小規模な生産台数でビジネスを成立させるマツダのノウハウを取り入れていき、軽自動車から小型トラックまで幅広い車両タイプを対象とする。また、スズキと協力してインドで2020年ごろにEVを投入する。トヨタ自動車はスズキに技術的支援を行い、スズキが生産するEVのOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける。
SiCパワー半導体はFCV向き?
HVで実績のある技術とは別に、全固体電池やSiCパワー半導体の実用化にも取り組んでいる。全固体電池はEV向けに2020年代前半に実用化する計画で、200人体制で研究開発を進めている。全固体電池が走行距離を飛躍的に改善する可能性を持つことからトヨタ自動車は“ゲームチェンジャー”として期待を寄せる。
パワーコントロールユニットの小型化や損失低減に大きく貢献するSiCパワー半導体も2020年ごろに実用化する。SiCパワー半導体の採用は、燃料電池車(FCV)のFC昇圧コンバーターがEVに先行しそうだ。「昇圧のみで電流が一方向なのでメリットが出しやすい。ホンダが『クラリティ フューエルセル』で採用できたのも同じ理由だろう。FC昇圧コンバーター以外にも、採用のメリットが大きくなるモデルから順次拡大していく。5年前、SiCパワー半導体は、QCD(品質、コスト、供給)の全てが駄目だった。品質とコストは良くなったが、トヨタ自動車が理想とする歩留まりにはまだ届かない。十分な供給体制を整えるのも課題となる」(トヨタ自動車の説明員)。
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