IoTとともに考えるべき、IoPとIoHの改善と向上:IoTによって製品品質を向上する(1)(2/2 ページ)
IoTの活用が広がりを見せていますが、上手に活用すれば製品品質の向上につなげることも可能です。本連載では、最新の事例を紹介しながら、IoTを使って製品の品質をどう向上させるかについて説明していきます。第1回となる今回は、IoTを取り巻く動きの概要について紹介します。
航空機メーカーのIoTの事例
図2は、某航空機メーカーが、製品プロジェクトで実施した主な施策と、それによって得られたアウトプットです。
製品の「Quality(品質)」に当たる直行率は、エアーラインカストマーに納入する2回のフライトテスト後での、品質指標です。従来は100項目の重要確認点に対し、60%しかクリアできていませんでしたので、直行率を向上させることで、不具合に対する手直しや修理などを削減する必要がありました。
IoTを使って、現場での不具合情報をMES(Manufacturing Execution Systems)を介して取得し、不具合情報と改善策を関連部門にフィードバックを行いました。緊急を要するものは即対策を打ち、原因が特定できないものについてはアンドン(生産情報報告システム)で情報を出して設備を止めます。トヨタの有名な「なぜを5回繰り返す」を行い、発生要因を究明し、「べからず集」に取り込んで、開発段階に解決策をフィードバックし、新規設計に反映させました。その結果、プログラム開始から7年後に90%まで改善することができました。
「Cost(コスト)」は、製品コストだけでなく、オペレーティングコストについても重要になってきています。航空会社では、1回のフライトに必要なキャッシュという意味のKPI(主要業績評価指標)が設定されています。例えば、ジェットエンジンに付けたセンサーで測定した指標により燃費を図ることなどが有名です。製品品質が高いと整備に費やす時間が短くなることから、コスト削減に密接な関係があります。
「Quality」と「Cost」で行った改善施策の実施により、製品手直し時間などが劇的に短くなり、「Delivery」の生産機数の増加になりました。
これらの効果を実現するためには、IoPの自工程完結の施策と改善活動などが効果を発揮しました。さらに、IoHに当たる、開発・設計・生技・生産部門が同時に参加し、課題発生時の各仕事のユニット定義と役割を明確にすることで、横串のコラボラティブな改善策を実施しました。これらのアウトプットを出すためには、IoTだけでなく、IoPとIoHを有効に使っているのが理解できると思います。
本連載では、最新の事例を紹介しながら、IoTを使って、製品の品質をどう向上させるかについて説明します。特にIoTのところは、PLM(Product Life cycle Management)やMES(Manufacturing Execution System)が、品質向上のための重要な道具となってきています。その他、製品の全ライフサイクルで活用する内容を紹介します。
大きな組織全体でIoTを使うには、事業戦略、製品戦略といったことがスタートになります。しかし、単純に時代に乗り遅れまいと、社長直轄の組織を作って、IoTを使ったビジネスモデルをメンバーに考えさせるなどという進め方では、成果につなげるのは難しいです。まずは、会社のトップ自らが実現したいことクリアにすることが最初で、そのための道具の1つがIoTだと考えるべきです。ただし、IoTを使って製品の品質レベルを向上させるというのは、かなりレベルの高い内容です。現状実施していることを見直し、これまで投資した部分をうまく使いながら、不足分を強化し、自社のビジネス目標が実現されるといった内容を紹介していきます。
筆者紹介
田中孝史(たなか たかし)
KPMGコンサルティング 製造セクタ ディレクター
マネジメントコンサルタントとして、世界各地の製造業のコンサルテーションを実施した経験を有する。また、プロジェクトリーダーとして、製造業の企画・コンセプト、R&D、設計、生産技術、生産、ロジスティクス、販売・サービスと全てのライフサイクルを手掛ける。自動車、航空機、電気製品、衣服、医療機器など、対象とする産業も幅広い。
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