本当の「タグチメソッド」を誤解していませんか?:本質から分かるタグチメソッド(1)(1/4 ページ)
コトバばかりが先行している感のあるタグチメソッド。あなたは本質を誤解していませんか? SN比や直交表だけではない本当のタグチメソッドを知ろう
いま、モノづくりは大きな転換期を迎えています。そんな中で、タグチメソッドまたは品質工学と呼ばれる考え方が多くの企業から注目されています。同時に、多くの誤解も存在します。タグチメソッドは開発設計部門の技術者を対象として、品質管理(QC)の限界を超えてリコール撲滅を狙う考え方なのです。(編集部)
1.注目され、そして誤解されているタグチメソッド
品質はコストダウンの手段である
いま、モノづくりは大きな転換期を迎えています。工場での製造品質を向上させるだけでは、もはや社会は満足してくれません。製品が破棄されるまでのすべての期間、さらには破棄された後の地球環境への影響まで含めた品質が要求されています。顧客満足度という言葉を超えて、「生活者満足度」ともいうべき要求レベルになっているのです。
もう1つ忘れてはならない側面があります。価格であり製造コストです。産業革命以来、消費社会はコストパフォーマンスを追求してきました。「同じ快適な生活ができるなら、価格は安い方がいい」「より高い品質の製品を、できるだけ低価格で供給しなければならない」。消費社会の欲求は限りがありません。モノづくり技術者にとっては、大変に困難な時代を迎えているのです。
タグチメソッドでは「品質はコストダウンの手段」と考えます。品質向上を通じてしか真のコストダウンはできないからです。コストダウンの基本は、技術の開発と技術人材の育成です。今後のモノづくりはどうあるべきか。閉塞感を打破するパラダイムシフトの視点で、タグチメソッドを理解する必要があるのです。
タグチメソッドは、品質管理の限界を超える
「品質管理をきちんと行い、万全の検査を行って出荷したはず。それなのに、市場で不具合が発生しリコールをしなければならない。なぜだろう」と現場では悩んでいます。「日本のモノづくり力はそんなに落ちたのか」。周囲からは、そんな声も聞かれるようになりました。
しかし心配は無用です。モノづくりの技術力が落ちたのではありません。いままで成功してきたやり方に限界が見えてきただけなのです。すでに先進企業では、新しい状況に対処しようとして、限界を超える新しい方法論を使って走り出しています。その新しい方法論とは、タグチメソッドです。タグチメソッドが従来の品質管理では見つからなかった問題点を明らかにし、未然に防止する方法を提供できるからです。
QCサークルや「なぜなぜ分析」に代表される日本の品質管理手法の優秀さは、世界中で有名です。モノづくりの現場での「カイゼン」などの日本語は、いまや世界共通語になっています。日本に追い付こうとしている国々は「日本に学べ!」を合言葉に日夜努力しているのです。
このように大成功した品質管理の手法ですが、かなり以前から限界が見えていました。その1つの表れがリコールの多発です。限界の本質とは、リコールを引き起こす不具合問題が品質管理の手法では見つけられない点にあります。万全の検査を行い、100%の合格品を出荷したはずなのに不具合が起きるのですから、管理をいま以上に厳しくしてももはや対策にはなりません。
リコールの多発は、品質管理手法の限界を示している
では、どうすればいいでしょうか。タグチメソッドは、この限界を打ち破る考え方として注目されています。単なる実験計画の手法ではありません。モノづくりの根幹を変革する提案なのです。だから先進企業が意欲的に取り組んでいるのです。
品質管理と何が違うのか
タグチメソッドは、最近は品質工学とも呼ばれることが多くなりました。そのため品質管理と名称が似ているので、同じものだと誤解している人も多くいるようです。ここで、違いをはっきりさせておきましょう。
タグチメソッド | 品質管理(QC) | |
---|---|---|
ツール | SN比、損失関数、パラメータ設計 | なぜなぜ分析、QC7つ道具など |
対象 | 主に設計開発 | 主に製造 |
品質の範囲 | 市場品質 | 製造品質 |
狙い | 技術の管理(MOT) | 品質の管理 |
表1 タグチメソッドと品質管理(TQC)の違い |
表1に品質管理との違いを示しました。品質管理(QC)は、なぜなぜ分析やQC7つ道具や問題解決手法などが有名で、主に製造部門を対象とした管理技術です。製造工程の品質を管理して、出荷時の製品品質を維持することが狙いです。
それに対しタグチメソッドは、出荷後の市場品質を主に考えるので、生産技術や製品技術の開発や設計を対象とします。製造工程の品質ではなく、技術そのものの品質を管理するので、技術管理(MOT)の手法ととらえた方がいいのです。
図1に示すように、タグチメソッドは生産者からの目線でなく、消費者や生活者の目線から技術の品質を追求する手法です。追求する対象が製造される製品の質ではなく、開発と設計で生み出される技術情報の質です。なぜなら、それこそが市場での品質を決定するからです。
品質工学の対象は、設計開発などの上流部門
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