多くの買収で揺れ動いたCAD周りの10年、今後はユーザー側が買収に乗り出すか:CAD/PLMの10年史(4/4 ページ)
MONOistが開設した2007年以降、CADやPLMなどの設計製造システムを提供する大手ベンダーによる意欲的な買収が行われてきた。今後は、CAD/PLM、EDA、大手ユーザーという垣根を超えた企業買収が起こる可能性があるだろう。
3.異業種の企業に買収された例
一方で、異業種によりCAD/PLMベンダーが買収される。その最大のものは、2007年1月に行われた、シーメンスによるUGSの買収であろう。UGSはシーメンスの産業オートメーション事業の一部門であるシーメンスPLMソフトウェアとなっている(関連記事:2D図面作成機能は無償提供、UGSが3DCAD新製品(@IT))。シーメンスは、その後も数多くのCAD/PLM企業を買収することにより、同社にとっての現在の重要な戦略である “製造業のデジタル化”を実現している(関連記事:デジタルツインを全てカバーするシーメンス、投資額は10年間で1兆円超に)。
データベース管理システムソフトで世界市場のトップシェアを占める米オラクルは、2007年に米Agile Softwareを買収した。Agile Softwareは製品のライフサイクルを管理するためのソフトウェアを開発していた企業であり、ハイテク、生命科学、自動車、航空宇宙・防衛、消費者向け製品などにおいて、全世界で約900社に導入されていた。オラクルは、この買収により、PLM市場参入への足掛かりを得ている(関連記事:日本オラクルも参戦表明、PLM市場はどれだけ甘いか)。
スウェーデンのHexagonは、2017年に米MSC Softwareを買収した。Hexagonは、測定と生産ソリューションを手掛ける企業である。MSC Softwareは、同社のマニュファクチャリング・インテリジェンス部門の傘下企業となった。買収後もMSCブランドと会社の独立性や、独立したオペレーションは変わらない模様である。2016年12月にMSC傘下に加わったソフトウェアクレイドルにも影響はない。ヘキサゴンは、2014年にもCAMソフトウェアを開発する伊ヴェロ・ソフトウェアを買収しており、製造業向けのソリューションを充実させている(関連記事:米MSCがHexagonによる買収に合意、ただし「今後も独立性維持」)。
異業種によるCAD/PLMベンダーの買収は、市場の成長が著しい時代には、よく見られた。しかしながら、成熟期に入った現在、その件数は減っているといえよう。
4.今後の展望
今後もCAD/PLM業界においては、企業買収が繰り返されることになるだろう。それはCAD/PLMベンダーにとっては、生き残りをかけた戦略に他ならないからである。
その際、キーワードとなるのは、エレメカ連携であろう。すなわち、メカニカルとエレクトロニクスの設計をいかに融合させるか、というユーザーの課題に対して、CAD/PLMベンダーとしては、ソリューションを提供していくことが求められるからである。それは、今後、生き残りをかけた大きなポイントになってくるだろう。そういった意味では、CAD/PLMベンダーがEDAベンダーを買収する動きは、今後も続くものと予想される。
大手ユーザーがCAD/PLMベンダーの買収に動く可能性もある。この10年間においては、設計ツールの開発を自社による内製から、サードパーティーの開発に委ねる動きが、大きく進んだ時期であった。
大手ユーザーにとっては、設計ツールの提供を受けているCAD/PLMベンダーが買収され、設計ツールの開発が停滞するようなことになると、企業戦略そのものを見直さなければならなくなる。そういった事態になることがないよう、今後、大手ユーザーがCAD/PLMベンダーを傘下におさめておく、といった動きが出て来る可能性は高い。
あるいは、シーメンスによるメンター・グラフィックスの買収を見て、脅威を感じた半導体メーカーがEDAベンダーを買収するといったことも起こるかもしれない。いずれにしても、今後、CAD/PLM、EDA、大手ユーザーという垣根を超えた企業買収が起こる可能性があり、業界の動向から目が離せない時期になるだろう。
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