インフラ老朽化の点検作業時間をAIで10分の1に短縮、無料公開で評価へ:人工知能ニュース(2/2 ページ)
NEDOは、表面に汚れや傷がある状態でも、幅0.2mm以上のコンクリートのひび割れを80%以上の高精度で検出するシステムを開発した。橋梁やトンネルなどの点検に関わる作業時間を現在の約300分から10分の1の30分に短縮できるという。Webサービスとして同システムを無料公開し、検出精度や作業効率などの有効性を検証する。
熟練作業員による教師ありデータのディープラーニングで検出精度を向上
今回開発したシステムは、デジタルカメラによる撮影までは同じだが、後は撮影画像をシステムに読み込ませるだけでひび割れの箇所を検出してくれる。CADデータ化についても、従来の手作業が不要になるので、10分の1という劇的な時間短縮が可能になる。
従来のひび割れ検出技術は、撮影画像を白黒処理してその濃淡から検出するものだった。この場合、ひび割れ以外(チョーク跡、気泡、漏水などによってぬれた部分との境界など)を検出する上、検出精度も12%と低かった。
今回開発したひび割れを検出技術は、熟練作業員による教師ありデータとなるひび割れ画像約600枚を用いたディープラーニングによって検出精度を高め、81%という精度を実現した。「ひび割れの特徴点を検出するプロセスについては、人間の知見を入れ込んでいる。これは、教師ありデータだけでのディープラーニングでは精度を62%までしか出せなかったためだ。これら全てを含めて『AIを活用した高精度システム』としている」(AIST 情報・人間工学領域 知能システム研究部門 コンピュータビジョン研究グループ 主任研究員 永見武司氏)という。
今回無料公開するシステムは、現時点でひび割れ自動検出機能を利用可能だ。今後は検出データをCADデータ化する機能も追加する予定。永見氏は「今回の無料公開はWebブラウザで利用できるようにしているので、画質次第という前提はあるがスマートフォンのカメラで撮影した画像にも適用できる。既にスマートフォンアプリも試作しているので、無料かどうかは議論することになるが公開したいと考えている」と説明する。
NEDO ロボット・AI部で今回のプロジェクトのプロジェクトマネージャーと務める安川裕介氏は「首都高速道路をはじめとするコンクリート構造物で実証実験を進めるとともに、無料公開による評価結果を反映し、2019年3月末のプロジェクト終了までにシステムの実用を開始したい。最終的には、ドローンやロボットによる撮影との連動、検出した道路構造物のひび割れの帳票化などが点検作業の効率化には必要になるだろう」と今後の展望を述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 世界を変えるAI技術「ディープラーニング」が製造業にもたらすインパクト
人工知能やディープラーニングといった言葉が注目を集めていますが、それはITの世界だけにとどまるものではなく、製造業においても導入・検討されています。製造業にとって人工知能やディープラーニングがどのようなインパクトをもたらすか、解説します。 - 変圧器の余寿命をリアルタイムに把握できる診断システムを開発
明電舎は、リアルタイムに変圧器の余寿命を把握できる「変圧器オンライン余寿命診断システム」を発表した。油入変圧器に取り付けた各種センサーから取得したデータをクラウドに蓄積し、オンラインで遠隔監視と診断ができる。 - インフラ点検用ロボットに搭載可能な高エネルギーX線非破壊検査装置
産業技術総合研究所と静岡大学は、インフラ構造物などを検査するロボットに搭載可能な、バッテリー駆動で小型軽量の高エネルギーX線非破壊検査装置を開発した。肉眼では確認できない社会/産業インフラの経年劣化を効率的に点検できる。 - 東芝とアルパイン、産業用ドローンを用いたインフラ点検
東芝とアルパインが、産業用ドローンを用いた電力インフラの巡視点検サービスにおける提携関係構築に合意した。 - 総合電機メーカーの面目躍如、既存技術の活用で水中点検ロボットを実用化
パナソニックが保有する技術を多く転用したダム点検用の「水中点検ロボット」を開発、2016年度内の事業化を狙う。バッテリーは電動アシスト自転車用のバッテリーを利用している。 - 「GoPro」を使ってインフラ点検! 警視庁も導入したラジコンヘリコプターとは
サイトテックは「新価値創造展 2014」で、GPSやジャイロシステムを搭載したラジコン型のヘリコプター「DOKAHELI」を展示。デジタル一眼レフカメラやハンディカメラ、撮影方向を制御できるサーボ機構などを搭載して飛行することが可能で、上空からの景観撮影、災害現場や構造物の調査などに活用できるという。