総合電機メーカーの面目躍如、既存技術の活用で水中点検ロボットを実用化
パナソニックが保有する技術を多く転用したダム点検用の「水中点検ロボット」を開発、2016年度内の事業化を狙う。バッテリーは電動アシスト自転車用のバッテリーを利用している。
パナソニックは2016年5月25日、同社のロボティクス分野に関する説明会を開催。開発中のダム用水中点検ロボットシステムを披露した。ダムにてこれまで潜水士によって行われていた目視による水中点検をロボットによって行うもので、現場の人手不足を解消し、有人では頻繁に行えない深度の点検を容易にする。同社では2016年度中の事業化を狙う。
道路や橋梁といった社会インフラの点検にロボットを利用する試みは近年活発になっており、国土交通省も社会インフラ維持管理ロボット開発重点分野として橋梁、トンネル、それに河川/ダムの水中施設を挙げている。
橋梁とトンネルについてはドローンによる点検が実用化に向かっているが、水中点検については、水中という特性に起因する「視界の悪さ」「位置精度検出の困難さ」「点検映像の画質」といった課題が存在するが、これらをパナソニックは既存製品開発で培った技術にて克服した。
画像の鮮明化にはAV製品開発で培った画像処理技術、明るさの確保には照明技術、自律制御にはセンサー/制御技術、ダム壁面のキズ検出にはディスプレイ製造で得た表面傷抽出技術など、さまざまな製品を手掛ける総合電機メーカーである同社の強みを、水中点検ロボットとして結実させた格好だ。
ロボットはボートによって点検地点近くまで運ばれ、水中でのおおまかな移動はオペレーターによって行われるが、対象壁面から1メートルの距離を保って姿勢を乱さず、水平/垂直に移動する自律制御機構はこのロボットが持つ大きな特徴の1つだ。壁面の撮影は搭載する4Kカメラ(2Kにクロップ)で行うが、これも同社製カメラを利用したものだ。
この自律制御については、各種センサー(9軸センサーで水平、深度計で深度、超音波センサーで距離/方向の維持)と4基のスラスターで行っており、超音波センサーは自動車で用いられるバックモニター用センサーを改良したもの。200メートルまでの耐水深性能を持つが、潮流(水流)のある環境での利用は想定されていない。
同社は溶接ロボットや実装機など製造業向けロボットをはじめ、近年では搬送ロボット「HOSPi」や離床アシストベッド「リショーネ」、装着型ロボット「アシストスーツ」(関連会社アシストリンク製)などを実用化している。これはロボット導入が製造業から農業、サービス業へ拡大する流れに沿ったものといえ、今回の水中点検ロボットシステムについても同様といえる。
加えて、今回の水中点検ロボットで目を引くのは、同社の有する既存製品ならび既存技術の活用だ。幅広い製品開発を行う同社では「転地」という思想があり、これは同じ製品や技術であっても、対象を変えて投入することを指す。画像処理や自律制御などの技術面ではもちろん、部品ベースでも「転地」を行うことで自社の強みを生かすことを意図しており、総合家電メーカーとしての面目躍如とも言えそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ドローンの“弱点”と解決へのアプローチ
小型無人機(ドローン)の専門展示会、「国際ドローン展」が開催された。業務向けへの提案が多く盛況であったが、展示の中にはドローンが抱える課題の解決を目指すものも見受けられた。 - パナソニックの搬送ロボット「HOSPi」、新JIS規格の認証を取得
生活支援ロボットに関する新たなJIS規格「JIS B 8445」および「JIS B 8446」を、パナソニックの搬送ロボット「HOSPi」が取得した。 - ISO 13482取得はロボットの“安全”を見つめ直す
ホンダやサイバーダインの取得した生活支援ロボットの安全認証規格「ISO 13482」だが、実は具体的な安全設計手順の記載はない。長岡科学技術大学の木村准教授は「安全設計のガイド」とISO 13482を紹介する。 - 実用化進む「装着型ロボット」勝算は、アクティブリンク藤本社長に聞く
多くの装着型ロボットを開発してきたアクティブリンクが2015年、ついにロボットの量産を開始する。ビジネスとしての勝算はあるか、藤本社長に聞いた。 - ベッドの一部が分離して車いすに、パナソニックの介護向けベッド
パナソニックの離床アシストベッド「リショーネ」は、電動ケアベッドの一部が電動リクライニング車いすとして分離・変形する。介助する側/される側双方の負担を減らし、ベッドから車いすへスムーズに移乗できるという。