IoT時代に求められる「データ志向文化」、必要なのは三位一体:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
IoTの進展による本質的な価値を生むのは、得られたデータをどう活用するかという点に尽きる。しかし、製造業においては「データ活用」をどのように進めていけばよいのだろうか。BIツールベンダーであるクリックテックのアジア・パシフィック地域 製造・ハイテク担当事業開発ディレクターのジェレミー・シム氏に話を聞いた。
重要なのはデータ分析結果と経験に基づく結果が異なる時
MONOist データ活用において重要なポイントには何があると考えますか。
シム氏 特に重要なのが分析結果である。さらに踏み込んでいえば、分析結果が、人間の経験や勘に基づく判断結果と異なる時であるといえる。経験や勘による判断結果は必ずしも正解ではない。経験や勘も頼りになるものだが、データ分析の結果も含めて活用するほうが、よりよい結果を得ることができる。
意思決定というのは、経営層にかぎらず、どの階層や役職の人でも行う。あらゆるユーザーがよりよい意思決定を行えるようにするには、誰でも簡単に使えるデータプラットフォームが必要になる。Qlikが狙っているのはそういう領域だ。ただ、ユーザー(事業部門)中心だという話はしてきたが、組織としてうまくデータを活用できるようにするには、ユーザー部門とIT部門、経営層が三位一体で協力して取り組んでいくことが必要だと考えている。
データ活用だけで生産性を改善
MONOist 製造業におけるデータ活用の成功事例について教えてください。
シム氏 例えば、神戸製鋼所の鉄の圧延工程での採用がある。圧延においては作業のスピードと制御精度が最終的な品質に密接に関係する。従来は熟練技術者の経験や勘に頼ったオペレーションを行ってきていたが、生産品ごと、作業員ごとのライン速度をリアルタイムで計測し、そのデータを見極められるようにした。これにより、改善の分析が進み、最終的な生産性が5%改善した。さらに電力使用量も削減することに成功した。
一方、スウェーデンのSCANIA(スカニア)では、製造するトラックからデータを取得し、遠隔監視を行うソリューションなども既に実績がある。トラックの運行データを取ることで、トラックそのものの予防保全などに活用できる他、運転するドライバーの行動監視や異常監視などにも活用できる。
インドのMahindra and Mahindra(マヒンドラ&マヒンドラ)はBOMデータと生産計画データを、Qlikのソリューションにより一元化してビジュアル化することで、在庫の最適化を実現できた。これは例えば、自動車を考えた場合、タイヤが400本、ホイールが400個、ギアが110個あったとする。その時に在庫が余っているものを考えるとタイヤかホイールと考えがちだが、この答えはギア10個分である。タイヤもホイールも1台当たりに4個使うがギアは1個であるためだ。こうしたことは生産計画と生産BOM、在庫情報などが全て一元的に把握できなければ分からない。データ分析を行うことで在庫圧縮に成功したという例である。
これらのように得られるデータを効果的に活用することで、製造業におけるオペレーションの改善をさまざまな領域で行うことができる。データ活用というと「データはあるがどのように活用していいのか分からない」という話をよく聞く。しかし、活用のアイデアについては、顧客だったり、現場のユーザーだったりが多くの場合持っている。特に現場力が高い日本ではこうしたアイデアが豊富な印象がある。データ志向(データドリブン)を推奨しつつ、日本発の新たなアイデアの成功事例を生み出せるように取り組んでいきたい。
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