IoT実現のヒント、新幹線延伸のシステム構築はどのように成し遂げたか:製造業IoT(3/3 ページ)
IoTを活用し産業を革新する第4次産業革命が大きな注目を集めている。しかし課題となっているのがシステムの複雑さや異種システム環境との連携だといえる。こうした複雑なシステムを実現している世界がある。鉄道だ。北陸新幹線延伸を推進するJR東日本に、システム構築の取り組みについて話を聞いた。
カギを握る「自律分散システム」
恩田氏が2つ目のポイントとして挙げるのが「システム構築の工夫」である。
JR東日本の「COSMOS(Computerized Safety Maintenance and Operation Systems of Shinkansen、コスモス)」は、新幹線に関わる業務を計画から当日の実施、その実績までを一元的に管理するトータルシステムである。需要に応じた適切な輸送計画、運行状況の変化に応じた進路制御(ポイントの切り替え)、旅客案内、各種新幹線設備の監視と管理、気象条件などに敏速に対応する防災管理、新幹線車両や保守作業の管理などの機能を一元的に保有している。
COSMOSは、新幹線の営業時間帯だけではなく夜間の保守作業の管理も行っているため、基本的には24時間稼働させ続ける必要がある。新路線を運用するためには、このシステム内に新幹線の路線を延伸するためには、延伸区間の駅データや機能などを新たに埋め込まなければならないが「止めずに埋め込む」ことが大きな課題となっていた。
ここで活躍したのがCOSMOSの開発に携わった日立製作所の「自律分散システム」である。自律分散システムとは、生体における細胞と同様で同じ構造や情報を持つ最小単位のサブシステムを組み合わせて、器官としての機能を生み出すようなシステムである。COSMOSでは、制御装置を設置し、この制御装置がダイヤを保有。そのダイヤと在線情報によって進路制御を行う仕組みを取っている。細胞が古くなった部分を「作りながら壊し」「壊れながら直す」という作業を常に続けているように、このシステムの利点はサブシステムレベルでシステムの追加や削除が容易に行えるという点である。
これにより基本的には駅の制御装置が1つのサブシステムとして成立しているため、営業運転を止めずに新駅の追加や試験(テスト)が可能になった。駅単位で切り離してテストしたり保守したりすることもできる。
そして、新駅の建設と合わせて駅1つ1つでサブシステムを構築し、それを全体システムと適合させる、という順番でCOSMOSへの取り込みを実現していった。恩田氏は「各システムを最初から開発するわけではないので、システム開発の負荷や調整などの負担なども大きく抑えることができた」と述べている。
さらに、全体システムへの取り込みについても、新幹線がミッションクリティカルであるために、テスト用に運行管理中央装置のミラーシステムを日立製作所の大みか事業所が構築。まずはこのミラーシステムに接続し、ここでテストを重ねて問題ないと判断してから、本システムへの接続を行う。「このミラーシステムは継続的に運用しており、延伸での活用を進めている他、現場の要望などを受けた仕様変更などにも活用している」と恩田氏は説明する。
メインシステムは無理に分けない
3つ目のポイントが「システム運用の1本化」である。新幹線でそれぞれの管区において別のオペレーションを実現するために、別のシステムを構築するという考え方もできるが「それぞれの乗客から見た場合、JR東日本管区だからや、JR西日本管区だからというのは気にせず利用したいはず。利便性を確保するためには一元的であるべきということから、メインシステムは1本に統合している。オペレーションに関連する部分だけ調整するという方法をとっている」と恩田氏は述べている。
これらの3つのポイントをベースとしたノウハウを確立したことで、他社連携を含めた延伸の負担を大きく低減することに成功したという。「北陸新幹線の金沢延伸から約1年後に北海道新幹線を開通。実質的にはほぼ並行して作業を進めてきた。これらを従来の手法で行うのは難しかったが、新たなノウハウを確立したことで可能となった。今後も、延伸は続くが、他社連携を含めたノウハウは大きな力を発揮する」と恩田氏は述べている。
IoTを活用したスマートシステムの実現には、異種環境や異種システム間の差異を埋めて、連携を実現することが必須である。オペレーション面でのすり合わせや負担の小さいシステム運用、サブシステム構築とその連携など、既にミッションクリティカルの領域で実現したシステム構築のノウハウは参考にできるだろう。
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