レスキューロボットで「優しく安全に素早い災害救助活動」の実現を目指す:第16回レスキューロボットコンテスト(3/4 ページ)
災害対応にはロボット技術の活用が期待されており、研究者や技術者の育成を目的とした「レスキューロボットコンテスト」が毎年夏に開催されてる。ここでは2016年8月6〜7日に実施されたコンテストの概要と結果をお届けする。
過去の震災から学び、レスキュー活動を考える
レスコンは毎年12月に「ロボット×レスキューフォーラム」を開催し、ここで翌年に実施するコンテストのレギュレーションを公開する。最先端のレスキューロボットや技術に関する講演、実際に救助活動にあたっている消防隊員の講演や高度資機材の見学もプログラムに入っている。
レスキューコンセプトを検討する際、地元の消防署を訪問し過去の震災における課題や現場が必要とする機能をヒアリングするチームもある。
東日本大震災では、停電で避難誘導を呼びかける機器が動作せず避難誘導が遅れたそうだ。そこで、「なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校)」チームは、レスキュー活動においては現場の情報を多く集め、被災者に避難誘導をすることが重要だと考えた。
彼らは対応策として停電しても稼働するロボットにスピーカーと電光掲示板を搭載し、避難誘導が行えるようにした。ロボットには食料の他、救護用品、簡易ベッドや応急処置マニュアルなども搭載しており、負傷した被災者がある程度は自力で対処できるように配慮したそうだ。
もちろんレスコンでは、フィールド上にはダミヤンしかいない。しかし、現実には自力で避難できる人も多いだろう。その人たちにロボットで避難誘導を行ったのだ。
レスコンは上空のヘリテレとロボットに搭載したカメラ映像だけで、現地の情報を収集して救助活動にあたるため、情報収集が重要となる。ファイナルミッションでは「高台の状況がヘリテレからは見えない」という設定になっており、ロボットが被災地に入って走り回ってダミヤンを発見しなければならなかった。
「とくふぁい!(徳島大学 ロボコンプロジェクト)」チームは、ロボットに搭載したドローンを飛ばして、2体のダミヤンをいち早く発見。同時にミッションを行っている相手チームとコミュニケーションをとるコントロールルーム間通信という機能を通じ、ダミヤンの居場所や路上ガレキの情報をシェアしていた。
このようにレスコンにおいては、競技ではポイントとならない機能やシステムを搭載したり、他チームと情報を共有し互いに救助活動をサポートしあうチームが多い。コンテストのためのレスキューシステムではなく、「レスコンの背後には、常に現実のレスキュー活動が控えています」という原則が参加者に周知されているからだ。
現実には、条件が整ったレスキュー現場などない。このコンテストから、直ちに実用的なレスキュー技術が生まれるわけではないだろう。しかし、コンテストを通じて若いエンジニアが、救命救助機器の技術的な課題を調査研究することには大きな意義がある。子どもを含む一般来場者に、コンテスト形式で研究を分かりやすく発表するのは、レスキューシステムを拡充し、災害に強い世の中を作る啓発活動として重要な取り組みだろう。
今回のレスコンも、非常に見ごたえがあった。各チームのロボットがよく動いていただけではなく、運営側が客席からは見えづらいコントロールルーム内の状況や、各チームの取り組みを伝えていたのも、競技の分かりやすさにつながっていた。
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