出場チームに聞く「DARPA Robotics Challenge」決勝戦の舞台裏(後編)、「世界との差は開いた」が2020年には“現場”へ:ロボット大国日本は負けたのか(1/4 ページ)
世界から23チームが集まった、災害対応ロボット競技会「DARPA Robotics Challenge」決勝大会。日本からの参加は最高10位と決して振るわず、世界との差を痛感することになったが、産総研チームでは得られた課題から2020年の“現場入り”を目指す。
米国防総省が管轄する研究機関「Defense Advanced Research Projects Agency」(DARPA)の主催する災害対応ロボット競技会「DARPA Robotics Challenge」(DRC)が行われ、日本からの参加も含めて23チームのロボットが成果を競った。
DRCは福島第一原子力発電所の事故をきっかけに実施された競技会だったが、成績だけを見れば日本からの参加チームは最高で10位、優勝は韓国からの参加チームだった。“日本惨敗”という論調もあったが、ロボット競技会は順位を競うだけではなく、競技会を通じて交流を深め、技術革新を進めることも大きな目的の1つに挙げられるので、この指摘は必ずしも的を射ていない。
では参加者はこの競技会を通じて何を得、何を感じ、今後どのようにロボット開発を進めるべきと感じたのか。「TEAM AIST-NEDO」として参加した産業技術総合研究所の金広文男氏(知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループ研究グループ長)と梶田秀司氏(同 主任研究員)に話を聞いた。
災害対応ロボット競技会「DARPA Robotics Challenge」に参加した産業技術総合研究所の金広文男氏(左:知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループ研究グループ長)と梶田秀司氏(右:同 主任研究員)
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なぜ旧型ロボットだったのか
――今回出場したのはHRP-2でしたが、なぜ新しいHRP-3やHRP-4では無かったのか、疑問に思いました。特にHRP-3は防塵防滴機能が実装されていますし、今回の競技に最も適していたのではないでしょうか。
金広氏: あのような屋外環境では本来、HRP-3が使えるべきだったのですが、HRP-3は10年くらい前のプロジェクトで開発して以来、今まで2体しか作られていません。もしどこか壊れても、予備パーツが無いという状況でした。それに対し、HRP-2は20体くらい作られていて、予備部品はそれなりにある。ハードウェアとしても枯れているので、効率を考えると、HRP-2を改造した方が良いという結論になりました。
HRP-4という選択肢もありましたが、この機体はギリギリのスペックで軽量化したかわりに出力を抑えているので、DRCのタスクのためには不十分という懸念がありました。実際の現場では、ドアもバルブも重くはなかったので、もしかすると大丈夫だったかもしれませんが、どんなものが出てくるか分かりませんでしたから……。
――HRP-2には、DRC用としてどんな改造を行ったのですか。
金広氏: 外観で分かるのは、腕と足と首が伸びたことです。その結果、身長はオリジナルのHRP-2に比べ、15cmほど高くなっています。手足が伸びたので、これに対応するために内部の駆動系や電源もパワーアップする必要がありました。
――かなりの大改造ですね。
金広氏: なんだかんだで結構変わってしまって、実は「枯れている」という意味があまり無くなってしまいました(笑)。外見だけでなく、じつは中身もかなり変わっています。
――身長を高くしたのは、いずれかのタスクで必要になったからですか。
金広氏: われわれはトライアル(予選)に出場していませんでしたが、トライアルのタスクモデルでシミュレーションを実行したところ、コンクリートブロックの不整地を歩くためには、足の長さが少し足りないことが分かりました。足を長くすると、相対的に腕が短くなります。ガレキのタスクで、足元の物体を拾おうとした場合、腕の長さがそれなりにないと届かないということで、腕も伸ばすことになりました。
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