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災害対策ロボットの課題と求められるブレークスルー2015 国際ロボット展(1/2 ページ)

災害時に人が立ち入ることができない現場へロボットを投入し、人に替わって作業を行う、そんな災害対策ロボットへの期待はますます高まっています。ではその実現に必要な技術や要素とは?

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「2015 国際ロボット展」で行われた「NEDOロボットフォーラム2015」
「2015 国際ロボット展」で行われた「NEDOロボットフォーラム2015」

 「2015 国際ロボット展」で行われた「NEDOロボットフォーラム2015」(2015年12月3、4日、東京ビッグサイト)では、国内外の研究者を招いて、ロボットに関する最新の研究開発動向や今後の展望について、パネルディスカッションや講演が行われました。ここでは、パネルディスカッション「災害対策ロボティクスの可能性と期待」の模様を紹介します。

DRCで見えた災害対策ロボティクスの課題

 人とのコミュニケーションを目的とするサービス系のロボットがさまざまな形で登場し、Factory Automationの分野以外にも、日常生活に近いシーンで使われることを想定したロボットが登場していますが、現在、特に期待が寄せられているのが災害対策用のロボットです。人が踏み込めない災害現場で人の替わりに作業できるロボットがあれば、人命救助や被害の軽減が期待できます。

 こうした議論は以前より存在しましたが、2011年の福島第一原子力発電所の事故を背景により活発となり、自然災害や事故などの現場で活動するロボットの技術開発を促す目的で、米国防総省高等研究計画局(DRARPA)主催の災害対策ロボットコンテスト「Robotics Challeng」(DRC)が行われました。

 DRCは2013年に予選、2015年6月に本戦が開催されました。DRCの本戦には、日本からはAERO(東大)、AIST-NEDO(産総研)、HRP-2Tokyo(東大)、NEDO-Hydra(東大、千葉工大、阪大、神戸大)、NEDO-JSK(東大)の5チームが参加しました(関連記事:災害救助ロボットコンテスト、入賞チームが語るロボット開発の詳細)

 本パネルディスカッションでは、DRCのプログラムマネジャーを勤め、トヨタが2016年1月に設立する人工知能技術開発の新会社「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE」のCEOに就任するGill Pratt(ギル・プラット)氏、DRCの優勝チーム(韓国科学技術院 KAIST)を率いたJun Ho Oh(オ・ジュンホ)氏、DRCに参加した稲葉雅幸氏(東京大学 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 教授)、中村仁彦氏(東京大学 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授)、金広文男氏(産業技術総合研究所 知能システム研究部門 ヒューマノイド研究グループ長)が登場し、災害対応ロボットの実用化に向けた課題や今後のブレークスルーのポイントなど熱心な議論が行われました。

 DRCの本戦では、遠隔操縦するロボットが「人間用の自動車を走行する」「自動車から降りる」「ドアを開けて部屋の中に入る」「バルブを開ける」「ドリルを使って壁を破壊する」「ガレキを越える」「階段を上る」などの課題にチャレンジし、1時間以内に完了できるかどうかを競いました。

 コンテストは人が活動する環境で人が扱う道具の利用を想定しているため、ロボットはヒューマノイドとすることが自然です。加えて2足歩行、自律移動(ただしDRCでは遠隔操作と組み合わせたシステムを想定)、ものを握る、つかんで回す、など精密な制御が要求されます。

DRCで優勝した韓国科学技術院「KAIST」チームのチャレンジの様子
DRCで優勝した韓国科学技術院「KAIST」チームのチャレンジの様子

 予測不能な事態の起こりうる災害現場で安定稼働するロボットを実現するため、どういった課題をクリアしていく必要があるのか、技術的なポイントやブレークスルーは何か。議論はそこから始まりました。

 プラット氏が指摘するのは信頼性を上げるためのポイントです。人とロボットとのコミュニケーション、特にうまくいっていないときのコミュニケーションが重要で、そこを“改善”し続けることが重要なポイントだとします。オ氏は、ブレークスルーが求められる技術として、AIを挙げました。

photophoto 元DRCマネジャーのギル・プラット氏(写真=左)、DRC本戦の優勝チームを率いたオ・ジュンホ氏(写真=右)

 人とロボットのコミュニケーションやAI、ビッグデータの活用など、多岐に渡るソフトウェア面の研究も必要ですが、人間環境でさまざまな仕事をこなすロボットの実現には、まずハード面の課題クリアが不可欠だというのは中村氏です。

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国際ロボット展のNEDOブースに展示されていたhydra

 中村氏のNEDO-Hydraチームは、現地で1カ月間キャンプしDRC本戦前日まで開発を続けましたが、棄権という形になりました。中村さんは、最大の課題は「力を精密に制御すること」と言います。災害現場で求められるのは人の手が行うような作業です。それには精密にアクチュエーターを制御して力を用いる必要があります。ただ、これは昔から取り組まれていて、いまだにクリアできていない課題でもあります。

 金広氏が指摘したのは転倒の問題です。災害現場ではもちろん、研究開発を加速する上で転倒への対策は非常に重要です。等身大のロボットが倒れると自身の重みで壊れてしまうこともあります。実際は細心の注意を払って、慎重に開発を進めているというのが実情だといいます。倒れても自分で起き上がることができれば、いろいろなチャレンジをより短いサイクルで回すことができ、開発を加速することにつながります。

 もちろん、課題は技術的なことだけではありません。開発の継続には人員や時間、予算が必要です。それには、社会や国の変化に対応しながら技術開発を維持し、使い続けるということが重要になってきます。

中村仁彦氏(左)、金広文男氏(右)
中村仁彦氏(左)、金広文男氏(右)

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