ispaceの目指す、群ロボットが月面探査に向かう未来:ロボットキーマンを訪ねて(4/7 ページ)
民間月面レース参加の次は、1000台の群ロボットで月面資源探査。ispaceの描く構想は壮大であり、実現するための知見も多く蓄えられている。「群ロボットで宇宙資源探査」の意図を尋ねた。
吉田氏 研究分野として群知能や自律分散の研究はあります。けれど、それをポンと月面のようなフィールドに持っていってすぐに役に立つかというと、残念ながらそうではありません。
自然地形の中で本当に移動できるのか、モビリティが保証されるのか。ロボット研究ではよくある話ですが、実験室の中ではうまく動く。距離も近いし、環境が整っていますから。しかし屋外にいくと、そもそも無線が成立しないとか、そういった問題に遭遇します。本当のアウトドア・フィールドで使える技術を作るというのが、今回、私たちのチャレンジです。それはまだ解決できていないことです。
宇宙に打ち上げるハードとしての素材、ソリューションについての知見はこれまでの超小型衛星の開発を通して蓄積されてきているという(関連記事:「超小型衛星を日本のお家芸に」〜月面レースに挑む研究者、東北大・吉田教授)。
吉田氏 その強い裏付けになっているのは、キューブサットに代表される超小型衛星が宇宙空間で十分に機能していることです。私たちのグループでも幾つかの人工衛星を開発し、軌道上で動作しています。そういったところのノウハウは東北大学とispaceとの共同作業を通して蓄積されています。
袴田氏 HAKUTOのプロジェクトはそれを月面でやるということ。まずHAKUTOで、小型のローバーのハードウェアを1台検証する。それと同時並行で群ロボットのシステムを開発しながら、将来的にハードウェアとシステムを合わせて月面に送り出すということを目指しています。
人間が宇宙にいく理由
袴田氏は「人間が宇宙にいく理由として、豊かになる仕組みを作らなければいけない。その1つが資源開発だ」という。
そして、それを決して夢物語として語っていない。現実解として推進しているプロジェクトが「群ロボットによる月面探査」なのだ。
袴田氏 私が宇宙探査で一番の問題点だと思っているのは、経験、トライアルの回数が少なすぎるということです。経験値が少なすぎてラーニングカーブがなかなか上がらない。高級なものを1台作るのもいいのですが、小さいほうでどんどん経験を積んでいって、アップグレードしていく、さらに強靭なシステムにしていくことが必要だと思います。それには、こうした群ロボットの手法がマッチしているのではないかと思います。
例えば小惑星になると近くて片道2年。行ってから帰って来るまで、軽く5年、10年はかかってしまう。1回に5年かかっていると、それなりになるのに10回繰り返すとしてそれだけで50年かかってしまう。国であればいいのかもしれませんが、事業としてそれはつらい。
そして、資源開発という軸を考えたときに、月面というのが一番アクセスしやすく、資源があるところです。比較的近距離の太陽系の天体には月や火星、小惑星群などありますが、時間軸で考えた場合、月のアクセスのよさは大きなアドバンテージになっていると思います。早ければ3日、軌道によっても数カ月で到着します。
宇宙開発全体で見ても、これから進むであろう方向性として、月を中継基地として活用してさらに宇宙での開発が進んでいくという方向になると考えています。それで、月というのがまず必要なところだと思っています。
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