工場でも必要な、IPアドレスとネットワークデザインの考え方:工場用イーサネット入門(3)(3/3 ページ)
インダストリー4.0や工場向けIoTなどに注目が集まっていますが、そもそも工場内のネットワーク環境は、どのように構築すべきなのでしょうか。本連載では、産業用イーサネットの導入に当たり、その基礎から設備設計の留意点などを含めて解説していきます。第3回では、工場用イーサネットでも必要なIPアドレスとMACアドレスのルールについて紹介します。
MACアドレスってなに?
続いて、MACアドレスという、IPアドレスとは異なる「電話番号のようなもの」について説明します。このMACアドレスの利用シーンは、直接つながっている機器の間の通信です。製造現場であればPLCや工作機械など、オフィスであればパソコンやスイッチなどです。
このMACアドレスは、機器に製造段階から付いている、世界で唯一の固有の識別です。MACアドレスは「00:11:22:AA:BB:CC」といったように、「:」(コロン)で区切られた2桁の英数字6組で表現され、最初の6桁がメーカー識別、次の2桁が機種、最後の4桁がシリアルになります。また、固定的に割り振られているので、基本的には変更できません。
ネットワークで通信するために必要な装置とその仕組み
そして、ここまで説明したIPアドレスやMACアドレスを活用してネットワークで通信するために欠かせない装置が、スイッチ(図2)とルーター(図3)です。見た目はほとんど変わらず、箱型の筐体に差込口(ポート)が付いていて、そこにイーサネットケーブルを挿して利用します。工場では、産業用のスイッチおよびルーターを用います。
これらの装置は、双方ともに、「データを転送する」という役割を担っています。では、このスイッチとルーターにはどのような違いがあるのでしょうか?それは、取り扱うデータです。
スイッチは、さきほど説明したMACアドレス情報を専門に取り扱います。つまり、スイッチは、直接つながっている機器の間で、機器固有のMACアドレスを宛先として、データを「転送」するわけです。これを「スイッチング」と言い、直接つながっているLAN(Local Area Network)上での通信を実現します。「OSI参照モデル(7階層モデル)」では第2層にあたる通信です。電話番号で例えれば、同じ市にある家同士での、市外局番を必要としない電話です。
一方で、ルーターはIPアドレス情報を取り扱い、このIPアドレスを宛先としてデータを転送します。これをネットワークの世界では「ルーティング」と呼び、LANとLANをつなぐ、比較的遠距離になる通信を実現します。「OSI参照モデル(7階層モデル)」では第3層にあたる通信です。こちらも電話番号で例えれば、異なる市にある家に、市外局番を含めて電話することです。
ネットワークでの通信は、非常に大まかに言えば、ここで紹介した2つの仕組みである、隣の機器に情報を転送する「スイッチング」と、遠くの機器に情報を転送する「ルーティング」を組み合わせて実現されています。
ネットワークデザインの考え方
では、実際にネットワークは、どのように設計すればいいのでしょうか。一番重要なことは、「ネットワークをつないで何をしたいのか」「何を解決したいのか」を明確にすることです。
例えば、「ネットワークはあるが、障害があるとネットワークが止まってしまって業務にならないから、止まらないネットワークにしたい」「現場にデータはあるが、ネットワークにつながっていないから、まずはつなぎたい」といったことです。そして、現状を十分に理解することが大切です。
その上で、どのようなネットワーク構成にすればよいのか、セキュリティはどのように考えたらいいのか、などを検討し、詳細な設計に落とし込んでいく流れになります。また、ネットワーク全体の管理や運用、保守についても十分な検討が必要です。
第4回:「工場を止めないネットワークの基本機能と、ハブとスイッチの違い」
筆者プロフィル
砂川豊(すながわ ゆたか)
ネットワンパートナーズ ソリューション事業部セールスエンジニアリング第5部 シニアエキスパート
メインフレームやクライアントサーバ構築、業務システム構築の経験を経て、ネットワークエンジニアとして多くの提案や導入に従事。2015年からIoT推進をメインに活動中。
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