なぜ工場でネットワークを考えないといけないのか:工場用イーサネット入門(1)(1/2 ページ)
インダストリー4.0や工場向けIoTなどに注目が集まっていますが、そもそも工場内のネットワーク環境は、どのように構築すべきなのでしょうか。本連載では、産業用イーサネットの導入に当たり、その基礎から設備設計の留意点などを含めて解説していきます。
インダストリー4.0やIoT(Internet of Things)という単語を目にしない日はありません。センサーを利用したシステム障害の予兆検知やマスカスタマイゼーションなど、競争に打ち勝つために製造現場を改革する事例も増えてきており、データ収集・解析・自動化を通じたより効率的なものづくりを実現するために、より一層のIT活用が必要になってきています。
しかしその一方で、改善・改革に意欲的な生産現場の方々と会話を重ねる度に、各設備を接続する重要な役割を担うネットワークには十分な注意が払われていない現実があると筆者は強く感じています。
本連載では、次世代型の工場に必要な産業用イーサネット(Ethernet)の導入にあたり、そもそもEthernetがどのようなものか、なにが“産業用”なのか、そして設備設計における留意点などを丁寧に解説していきます。
工場を止めるネットワークの問題
では早速、実際の工場で起きた2つのトラブルを紹介します。この原因は、連載のタイトル通りネットワークだったのですが、1つ重要な共通点がありました。それは“初動で誰もネットワークを疑わなかった”という点です。
CASE STUDY(1)
ある企業では、間もなく本番稼働を迎える生産設備の更新プロジェクトが進んでいた。プロジェクトの目的は2つ。1つ目は、ライン連携やPLCのマスター間通信を実現することで、より効率的な生産ラインをくみ上げることだ。2つ目は、近年の低価格化を背景にセンサーを大幅に増やし、より多くのデータを収集することで、製造設備の故障をいち早く察知して止まらない工場をつくることだ。
最新の産業用Ethernetを使用した初めての試みだったので不安もあったが、単体の負荷試験や小規模な試験環境では問題なく動作し、スケジュールも問題なさそうだった。しかし、全ての制御機器をそろえた最終試験で、制御機器が全て落ちてしまった。
結果、原因が判明し、解決策を立てることができたのは1週間後で、具体的な解決には4週間を要してしまい、全体スケジュールも遅延してしまった。
CASE STUDY(2)
ファクトリーオートメーション(FA)が進んでいるある工場では、フロアには自動走行マシンが動きまわり、ラインでは作業ロボットが絶え間なく動き続けている。円安の後追いもあり、好況に沸く海外向けの生産品が例年以上に売れ、工場は休む間もなく製造を続けていた。
そんなある日、1つのラインが停止した。幸いすぐに復旧したものの、翌週は3回も停止してしまった。すぐに復旧はできるものの、原因をつかむまでに2週間を費やしてしまった。さらに、いつ同じ状況に陥るかも分からないことから、半年以内で設備を刷新することになり、生産技術部門は残業の日々を送ることになった。
読者の方々の中にも、程度の差はあれ近い経験をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この2つのトラブルの原因と対策は今後の連載の中で詳細に触れていきます。産業用Ethernetの普及は今後も加速します。新しい技術の導入や、今まで問題がなかった設備を変えることに不安も多くあるでしょう。製造現場で一番避けたいことは生産設備が止まることです。だからこそ、このタイミングでネットワークに意識を持ち、産業用Ethernetを少しでもご理解頂ければ幸いです。
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