「うちも第4次産業革命をやれ」という指示は、既に本質を外している:製造業IoT(3/3 ページ)
第4次産業革命とした大きな変革の波が訪れる中、日本企業にはどういう取り組みが求められるだろうか。ロボット革命イニシアティブ協議会では国際シンポジウムを開催。その中で「第4次産業革命」をテーマとした、日本の経済産業省 製造産業局長の糟谷敏秀氏と、ドイツの経済エネルギー省の総合産業政策部門のディレクターであるヴォルフガング・シェレメ氏の講演の内容をお伝えする。
社長が「第4次産業に取り組め」というから……
これらのドイツの動きに対して日本はどのような取り組みを進めているのだろうか。第4次産業革命に取り組まなければならない理由として、経済産業省 製造産業局長の糟谷敏秀氏は「社会的な問題として人口減少がある。人口減少による消費の減少や、生産年齢人口の減少による供給能力の制約などが起きつつある。根本的な課題である少子化対策には当然取り組んでいかなければならないが、解決には時間がかかる。当面は生産面で1人当たりの付加価値を高めるということが重要になる。第4次産業革命はこの1人当たりの付加価値を飛躍的に高められる」と述べている。
日本の製造業の現状については「強みとして『現場力』が挙げられている。実際に技術者のスキルやロボットの活用、カイゼン活動などは世界でも高い競争力を持つものであるといえる。一方で、こうした生産現場での強みがあるにもかかわらず市場価値との結び付けが弱く『稼ぐ力が弱い』とも指摘されている」と糟谷氏は述べる。
加えて糟谷氏は、第4次産業革命に対しても認識の甘さを指摘する。「最近、『社長から第4次産業革命に取り組めと言われたのですが……』というような担当者の話をよく聞くが、そもそもの本質を外している。第4次産業革命でいわれているような人工知能(AI)やビッグデータ解析、IoTなどの技術はあくまでも手段。目的もなくやり方を変えても意味がない。海外では経営課題そのものを解決する手段として認識されている。一担当者や技術部門に丸投げするような話ではなく、経営者が全社的に取り組むべき問題である」と糟谷氏は警鐘を鳴らす。
「既にやっている」企業はさらに深く
一方で第4次産業革命で目指すような取り組みを「既にやっている」という日本企業も多い。実際に工場の見える化やデータ活用、データを活用したサービスビジネスの展開など、形になっている領域も多いのは事実だ。
しかし糟谷氏は「既に取り組んでいる企業は、これらの波をより積極的に捉えることで、さらに付加価値を高めることができるはずだ。例えば『つながる』という面を見ても、工場内から工場間、製造現場から他部門、市場やサプライヤーなどつながる範囲を広げることで新たな価値を生み出すことができる。ドイツや米国などの先進企業は、新たなビジネスモデルを生み出そうとしのぎを削っている。こうした中で生まれたデファクトスタンダード(事実上の標準)やデジュールスタンダード(標準機関に定められた標準)から、チャンピオン企業が生まれてくる。決まるのを待つのではなく、自ら動くことが必要だ」と述べている。
日本政府としての取り組み
これらの状況に対し、日本政府としても積極的に支援していく方針を示す。第4次産業革命などの動きに対しては、経済産業省が主導するロボット革命イニシアティブ協議会に加え、経産省と総務省が加わるIoT推進ラボなどが存在する。ロボット革命イニシアティブ協議会は製造業を中心に産官学が加わった組織で、実証事業を通じたユースケース創出を大きなテーマと据えている。一方のIoT推進ラボは、産官学は同様だが分野や製造業や運輸業、医療・健康、エネルギー、農業など全産業分野を対象としている。またテーマも企業間マッチングや資金支援、規制改革などを掲げていることが違いとなる。どちらにしても「経産省としてはそれぞれの活動を強く支えていく」(糟谷氏)としている。一方、日本機械学会が母体となった民間組織である「Industrial Value Chain Initiative(IVI)」などについても連携を取っていくとしている※)。
※)関連記事:“日本版インダストリー4.0”のカギは“緩やかな標準”――新団体「IVI」発起人
具体的に日本政府として取り組んでいくのは以下の6項目だとしている。
- ユースケースの創出
- 規制・制度改革
- サイバーセキュリティ
- 国際標準化への貢献(IEC/ISO)
- 中小企業への導入支援
- 人材育成
糟谷氏は「当然これらの取り組みは日本一国でやるべきことではないので、強みは強みとしてブラックボックス化するなど保持しつつ、共有できるところは迅速に共有し、第4次産業革命実現の課題を解決し、競争の前の協力を進めていきたい。そのためには国際協力と連携が重要になる」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 第4次産業革命、2030年に日本の製造業が“あるべき姿”とは?
第4次産業革命にどう立ち向かうべきか。安倍政権における「ロボット新戦略」の核として取り組みを進める「ロボット革命イニシアティブ協議会」で、製造業のビジネス革新をテーマに取り組む「IoTによる製造ビジネス変革WG」が中間とりまとめを公表。日本の製造業の強みである「人」や「現場力」を生かしつつIoTなどを取り込む上での論点をまとめた。 - 政府主導の“インダストリー4.0”対抗基盤「IoTによる製造ビジネス変革WG」が始動
政府主導で2015年5月に始動した「ロボット革命イニシアティブ協議会」において、IoTによる製造業革新の動きについて、企業間連携や国家間連携の基盤となる「IoTによる製造ビジネス変革WG」が始動した。事実上、ドイツ政府が進める「インダストリー4.0」などに対する日本側の受け皿となる。 - 「ロボット新戦略」が生産現場にもたらす革新とは?
日本再興戦略の一環として策定された「ロボット新戦略」は、2015年5月15日に新設される「ロボット革命イニシアティブ協議会」により、実現に向けた活動に入ることになる。本稿ではロボット新戦略が生産現場に何をもたらし、どういう方向性になるのかを解説する。 - ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】
「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」という言葉をご存じだろうか? 「インダストリー4.0」は、ドイツ政府が産官学の総力を結集しモノづくりの高度化を目指す戦略的プロジェクトだ。インダストリー4.0とは何なのか。同プロジェクトに参画するドイツBeckhoff Automationグループに所属する筆者が解説する。 - 日本の製造業が「IoTで遅れている」と指摘される理由
MONOist主催のセミナー「インダストリー4.0の到来は日本をどう変革するか」の基調講演に、経済産業省 の正田聡氏が登壇。日本政府としてIoTによる製造業革新を支援する取り組みをどう進めているかということを紹介した。インダストリアルインターネットコンソーシアムの日本の窓口として活躍する吉野晃生氏の講演なども含め、同セミナーのレポートをお送りする。 - “日本版インダストリー4.0”のカギは“緩やかな標準”――新団体「IVI」発起人
ドイツのインダストリー4.0や米国のインダストリアルインターネットなど、世界的にモノづくり革新の動きが加速し“仲間作り”が進む中、日本は各企業がバラバラでまとまる動きがなかった。こうした状況に危機意識を持ち“緩やかにつながる”ことを目指して2015年6月18日に発足するのが「Industrial Value Chain Initiative(IVI)」だ。同団体の発起人である法政大学デザイン工学部 教授 西岡靖之氏に狙いと取り組みについて話を聞いた。 - インダストリアルインターネットコンソーシアムが目指すもの
米国のIoT推進団体として注目を集めるインダストリアルインターネットコンソーシアム(IIC)だが、実際にどういう方針で取り組みを進めているのだろうか。日本ナショナルインスツルメンツが開催したユーザーイベント「NIDays 2015」では、クロージングキーノートとして、IoTの産業実装を推進するインダストリアルインターネットコンソーシアム(IIC)の日本代表を務める吉野晃生氏が登壇。IICの取り組みと日本の動きについて紹介した。本稿では、この講演の内容と吉野氏へのインタビューをお送りする。 - 「電機業界の失敗を繰り返してはならない」――経済産業省 西垣氏
ドイツの「インダストリー4.0」や米国の「インダストリアルインターネットコンソーシアム」など、製造業のデジタル化が加速している。製造業の新たな取り組みに対し、政府が積極的に関与する動きが広がる中、日本政府はこれらの動きをどのように考えているのだろうか。経済産業省 ものづくり政策審議室長の西垣淳子氏に聞いた。