今水素ステーションを建てれば運営費は国と自動車メーカーが払ってくれる:燃料電池車(3/3 ページ)
トヨタ自動車と日産自動車、ホンダの3社は、燃料電池車の普及拡大に向けて、水素ステーションを運営するインフラ事業者に運営費を支援する。支援金額は、2015年度中の整備完了を想定する約100基の水素ステーションに対して、1基当たりで上限年間1100万円。支援期間は2020年ごろまでを予定しており、支援総額は50億〜60億円となる見込みだ。
2020年までは水素ステーションは100カ所で十分?
ただし、これらの手厚い支援は、政府が2015年度中の整備を目標とする100カ所の水素ステーションに限られる可能性は高い。
これは政府、特に経済産業省の資源エネルギー庁が見据える、水素社会実現に向けた3つのフェーズが背景にある。第1フェーズでは、現在〜2020年代半ばをイメージしており、水素利用の飛躍的拡大を目指す。第2フェーズは、2020年代後半〜2030年ごろをイメージしており、水素発電の本格導入や大規模な水素供給システムの確立を実現するとしている。第3フェーズは、現時点では水素供給に付き物のCO2を生成せずに済む水素供給システムを2040年ごろに確立するという。
今回の自動車メーカー3社の支援や、NeVからの補助金は、フェーズ1の前半となる2020年ごろまでに求められるレベルの水素ステーションの整備が目的。その水素ステーションの整備というのは、燃料電池車と同様に、首都圏、中京圏、関西圏、北部九州圏という4大都市圏を中心に普及を目指すことが決まっている。
そしてフェーズ1の前半で必要な水素ステーションの数は100カ所で十分なのだ。自動車メーカー3社の支援は、2020年ごろまで100基の水素ステーションに支援を続けることが前提になっている。
現時点で、既に日本全国に81カ所の水素ステーションの整備が進んでおり、これらのうち23カ所が開所している。もちろんこれら81カ所は4大都市圏の付近にある。残りの19カ所は、整備が遅れている関西圏や、4大都市圏の間を結ぶ高速道路沿いに設置される可能性が高い
もしこれら100カ所の水素ステーションが開所したとしても、利用機会は限られている。例えばトヨタ自動車は、燃料電池車「ミライ」の年間生産台数を、2015年に700台、2016年に2000台、2017年に3000台と見込んでいる。累計で5700台だ。2016年3月末までに燃料電池車の量産販売を始めるホンダが、2017年までにこの半数を販売したとしても、合計で8500台。日産自動車は“早くて2017年”に販売を開始するので、この燃料電池車の普及台数に含める必要はないだろう。
4大都市圏に限定する以上、燃料電池車の年間走行距離はあまり大きくならないだろう。年間で1万kmを走行すると仮定しても、燃料電池車の満充填からの走行距離が500km以上あることから年間で約20回水素ステーションを使うと見積もれる。
8500台が年間20回水素ステーションを使うと約17万回。これを100カ所の水素ステーションに均等に割り振ると、1カ所の水素ステーションが年間で利用される回数は1700回になる。年間で営業日が300日あるとすれば、1日当たりの利用回数は5.6回になってしまう。利用者が毎回満充填にして1万円程度支払ったとしても、毎日の売上高は6万円に満たない。
たとえ燃料電池車の普及台数が8500台の3倍の2万5000台になったとしても、1日当たりの水素ステーションの利用回数は15回程度で、ガソリンスタンドにははるかに及ばない。もちろん水素ステーションの数は100カ所のままという前提でだ。
だからこそ、政府と自動車メーカー3社は、水素ステーションの整備に協力するインフラ業者にとってデメリットにならないよう、運営費が掛からないようにするわけだ。ただし、現時点で必要な100カ所から、例えば倍増の200カ所になるといったような大幅な増加を想定していないことだけは確かだ。
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