イノベーションを生む「デザインマネジメント」の力とは【前編】:製造マネジメントインタビュー(3/3 ページ)
「デザインが経営を革新する」というと、少し大げさだと思うだろうか。しかし、実際に「デザイン」を基軸にして新たな視座に立つことにより、多くの事業革新につながるケースがあるという。「デザインマネジメント」を切り口に多くの企業の事業革新に携わるエムテド 代表取締役の田子學氏に話を聞いた。
日本企業における「デザイン」の地位は圧倒的に低い
MONOist デザインマネジメントの切り口で考えた場合、日本企業のモノづくりの問題点はどのようなところにあると考えますか。
田子氏 先ほど話した「一貫したメッセージをデザインできない」の原因の1つでもあるのだが、日本企業においてはデザイナーの地位が低いと感じている。時流としてデザインの価値やデザインに求められる領域は格段に上がっているのに、デザイナーが経営に発言できない環境は一向に改善されない。
その1つの要因としてハードウェア指向があると思う。「ハードウェアで良いモノを作れば売れる」という“過去の成功体験”に縛られて、それ以外の価値に目を向けない人が多い。例えばアップルのiPodを事例にするとよく分かる。日本メーカーがポータブル音楽プレーヤーでアップルに市場をさらわれたのは、ハードウェアとして負けたからではない。アップルはiPodリリース以前にiTunesを設計しており、コンテンツを顧客まで届ける最適な仕組みまでデザインしていた。だからこそ顧客の満足や支持を得られたのだ。入口から出口までをどうデザインするかが重要だったわけだ。
日本のメーカーに「顧客が何を求めており、そのためにどういう仕組みをデザインすべきか」という観点があったなら、コンテンツのコピー制限や独自規格による規制など、消費者の不利益につながることは起こり得なかった。これらから分かる通り、着地点をハードウェアに限定することで、自らの可能性を狭めているケースがあるのだ。
こんなエピソードもある。とある社長がライバル企業の製品を持ってきて「これに勝てる(外観の)デザインを作ってくれ」と言った。しかし多くの製品がハードウェアとソフトウェアの複合体になる中、外観だけで「勝てるデザイン」に仕上げるのは至難の業だ。外観はもちろん重要だが、それに見合ったソフトウェアを作ることも大切であるし、それが戦略製品だった場合は、すべきことをもっと多面的に考える必要があるのだ。こういった「デザイン」に対する誤解はまだまだまん延している。
複雑な課題を抱える現代においては、もはや経営の領域に踏み込まなければ、本当の意味での「デザイン」はできない。経営的観点からデザインを生かすことは、大きな強みにも成り得るのだ。実際に鳴海製陶の「OSORO」やキョーワナスタの「nasta」ではプロジェクトを通して製品開発、販売戦略、チームや組織の在り方など多岐にわたって取り組むことで、今までのモノづくりのやり方を再構築し成功することができた。
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