実務で使う場合の線膨張係数とポアソン比:甚さんの「技術者は材料選択から勝負に出ろ!」(3)(4/4 ページ)
今回は、線膨張係数とポアソン比について例題を解きながら解説。学問としての知識から実務へ役立てるにはどうしたらいい?
それでは、前回の衝撃的なランキング表で第1位を獲得した「ステンレス材」の次に来る第2位に注目してみましょう。それは、「S45C」です。
S45Cは、教科書では最初に出てくる機械材料です。炭素鋼と呼ばれる鋼材では代表的な鉄鋼です。
図5のランキングを「へぇー」と眺めているだけのヤツは、いつまでたっても「職人」にはなれねぇってもんよ。オメェみてぇな、「図面読めねぇ描けねぇのCAEキー坊」になっちまうぜぃ!
モー! 「CAEキー坊」だけは、止めてください! ランキング上位を徹底的にマークするんですよね。
さて、ここが問題だ。S50Cの存在はどうしても必要か? ここで、「目利き力」を発揮してほしいんだ。職人なら「S50C」を外せ。職人なら、「S45C」。これ1本で行け!
そうですね! 甚さん。そうすると、第1位がS45C:52.7%、第2位がSS400で23.6%となります。鋼材は、たったの2種類を覚えればいいんですね。
「なんでもあり!」で、ふと気が付けば世界の異端児となった日本の携帯電話。「なんでもあり!」や「和洋折衷(せっちゅう)」の文化を好む日本人ですが、ここが日本の技術力の弱点です。つまり、「標準化」が苦手な日本人なのです。第二次世界大戦の敗戦理由の1つになっているそうです。
一方、自慢話をするつもりは毛頭もありませんが、筆者は昨年(2010年)、隣国のEV車開発を指導してきました。その開発コードネームは、「アジア戦略EV車」です。
単純に想像するだけでも、激烈な低コスト化設計が要求されました。
- 安い材料の採用
- コンパクトな各部品とコンパクトなボディー
- 低コストなバッテリーとその軽量化
- 各部品の軽量化
- 部品点数の低減化
- 締結数と締結部品の低減化
これらは、低コスト化手法の王道です。
しかし、低コスト化激戦地区ゆえ、筆者が採用した戦法は、「A定食戦法」です。つまり、大量の食材を一度に仕入れれば、社食にある低価格の「A定食」や「B定食」が社員に提供できます。しかし、社員がそれぞれのお好みを食すれば、そこは高級料亭のお値段となるでしょう。この論法をEV車の機械材料に展開したのです。
さて、今回の最後は良君に締めくくってもらいましょう。
料理とは、限られた食材で最高の料理を提供する。これが、プロの料理人です。設計とは、限られた材料で最高の設計を提供する。これが、プロの設計者です。
イッツ、パーフェクトゥ!(It’s Perfect!)もう、オメェのことを「CAEキー坊」とは言わねぇ。許しちくれ。
★目利き力ポイント!:料理とは、限られた食材で最高の料理を提供する。これが、プロの料理人です。設計とは、限られた材料で最高の設計を提供する。これが、プロの設計者です。
隣国が工業の先進国になったいま、技術の職人の世界に、「3次元モデラー」と「CAEキー坊」の居場所はありませんよ。(次回に続く)
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。
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