横弾性係数を知らないのにCAE?:甚さんの「技術者は材料選択から勝負に出ろ!」(2)(1/3 ページ)
縦弾性係数と横弾性係数の使い分けを明確に! キーボードをたたいているだけのCAE技術者「キー坊」ではダメ。
当連載の登場人物
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生のイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
編集部注* 本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
甚さん! 前回の図2によるランキングは圧巻でしたよ。そして、48種類もある切削用材料のうち、上位のたった8種類で全部品の70.5%を占めるなんて……。気が楽になりましたよ!
そうか、良かったなぁ。あれはよぉ、「図面読めねぇ描けねぇ」の院卒のオメエのために提供したようなもんだ。分かったか? あん?
もちろんですとも。それから、CAEの専門家には喉(のど)から手が出るほど魅力的なデータが満載されていました。僕は、CAEでは自信がありますから……。恐らく、エリカちゃんよりも上手(うわて)です。
毎回言うがよう、CAEだけで飯食う技術者はヤメとけ! CAEはあくまでも設計の「道具」だ。道具が主人公となる職業はねぇぞ……あん?
どうしていけないのですか?
ばぁかも〜んっ! いちいち説明しなきゃいけねぇのか? 名刀正宗(まさむね)と呼ぶ和包丁をもっている料理人がいてよ、その包丁を振り回して刺身だけ切ってよう、そんでもって、オメェ、生きていけると思ってんのか?
「料理と料理人を設計と設計者に例える」――甚さんも度々この方法で若き技術者たちを説得しているようです。CAEはあくまでも「職人」の道具です。CAEの自称専門家にお会いすると、「モノづくりの方法」を知らないまま、キーボードだけたたいているような印象を受ける人も少なくありません。
その説明に最適な事例が「工業デザイナー」です。夢のような自動車や新幹線をデザインする自称工業デザイナーもいますが、現存する素晴らしいデザインの自動車や新幹線は、デザイン能力にも優れ、モノづくりにも熟知している工業デザイナーたちの作品です。
一方、毎日、キーボードだけをたたいている職業があるでしょうか? 例えば、小説家や記者などの文筆家が存在しますが、キーボードをたたいていない重要な行動があります。それが、「取材」です。足が棒になり、靴がすぐに擦り減るそうです。それでは、CAEの技術者にとっての「取材」とは何でしょうか?
3次元CADだ! CAEだ! と次々に新しい開発ツールが出現すると、これらを利用した独特の職業が誕生する。それは大変いいことなんだが、一日中、キーボードをたたいている職業がどこにあるかってぇんだ。
じっ、実は……。僕も一日中、CAEをやっています。しかも、どうでもいいところにCAEを施して、時間稼ぎをやっているときもあります……。
設計者ではない造形者、それを「3次元モデラー」と呼び、1日中、キーボードをたたいているCAE技術者を「キー坊」と呼んでいる。良君! ちょうどいい、もう一度、技術の「職人」を定義してみろ。
それは、超カンタンですよ。エリカちゃんのオヤジさん、つまり、寿司(すし)屋の辰兄ィさんのとの対比ですね。これ、分かりやすいです。CAEの「職人」もこの「目利き力」を持っていなくてはおかしいですよね。
良君! その通りだ。そんじゃ、職人になるための第一歩として、前回で約束した図の見方を解説するぞ。
そんじゃ、甚さん、おねげぇしますだ。
それでは、図1を見てください。「目利き力」の1つ目が「比重」です。確か、筆者は小学校4、5年生で学んだ記憶があります。
次に、図2を見てください。
比重とは、「10mm×10mm×10mm」の立方体の「質量(重さ)」を表します。ちなみに水は、1gです。小学生の記憶が戻りましたか?
応用例として、一円玉の重さを計算してみましょう。
- 外径:φ20 厚板:1.2 材質:アルミ合金(比重:2.7)
- 1円玉の重さ=(20/2)2×π×1.2×2.7×(10)−3=1g
甚さん! 僕は、富士山麓大学の院卒です。しかも、首席卒業ですから、「比重」ぐらいなら、これこそ、小学生でも十分に知っていますよ。
良君! 失敬! そんじゃ、職人になるための「目利き力」として、次の「縦弾性係数」と「横弾性係数」にへいるぞ。
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