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現場の“合理性”が不正を生む? 品質は意識ではなく「仕組み」で回すべき理由品質問題を解決する「三位一体」アプローチ(1)(3/3 ページ)

優れた人材や設備をそろえ、品質保証部門を設けてISO 9001などの国際規格の認証を取得している企業でも品質不正は発生しています。ここには現場での「判断の吸収」が大きく関わっています。本連載では全3回にわたり、品質を「あるべき論」ではなく理論と構造の観点から捉え直します。第1回では現場に焦点を当て、品質について掘り下げます。

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対策2)狩野モデルで、品質の解像度をそろえる

 品質に対する認識をそろえる手掛かりとして活用できるのが、1984年に狩野紀昭氏(当時:東京理科大学教授)が提唱した「狩野モデル」です。これは、ひとくくりに語られる「品質」を、顧客の満足の生まれ方によって下記の3つに分けて捉える考え方です。

当たり前品質:満たしていても強い満足にはつながりませんが、満たされていないと大きな不満につながります。異物混入、品違い、納期遅延などです。守りの品質です
一元的品質:性能と満足度が比例します。顧客が認識し期待している品質で、競合との差別化要因になります
魅力的品質:なくても不満にはなりにくい一方、あれば大きな満足につながります。顧客自身も気づいていない潜在ニーズが対象となります

 先ほど例に挙げた「クレームを絶対に出さない」と考える人は主に「当たり前品質」を、「お客さまの期待を超える製品を出す」と考える人は主に「魅力的品質」を重視していると捉えられます。どちらかが間違っているわけではなく、重視している品質の側面が異なっているのです。3層に分けた瞬間、議論は「どちらが正しいか」から「今どの層の話をしているか」に変わります。


図3:狩野モデル:ひとくくりの「品質」を3つに分けて考える[クリックで拡大] 出所:ウィズプロ

 この分類は製造や開発に限らず、営業にも調達にも経理にも当てはまります。部門ごとに3つの層を書き出してみてください。自部門にとっての「当たり前品質」を言語化できていない職場では、守るべき品質の土台も共有できません。

 重要なのは、抽象的な「品質のあるべき姿」を掲げることではありません。組織で働く人たちが同じ認識を持つことです。認識がそろえば、現場は迷いません。迷わない現場は「判断」を抱え込みません。

対策3)「空気を読まない」を、仕組みとして組み込む

 「現代経営学」や「マネジメント」といった概念を体系化したことで有名な経営学者のピーター・ドラッカーは、「リーダーにとって真摯(しんし)さが不可欠であり、組織では『何が正しいか』を軸に判断する姿勢が重要である」と説いています。このような人物は、周囲から見れば愛想がなく、人付き合いも得意ではなく、正論ばかりを口にする「煙たい人物」に映るかもしれません。しかし、品質の要所に必要なのはこうした人であり、意思決定の場に据えるべきです。

 ただし、これは人格や資質の話ではありません。「何が正しいか」を軸に判断する姿勢は、身につけることのできるスキルです。だからこそ、「そういう人がいてくれたら」と願うのではなく、「そういう役割」を組織の仕組みとして設けるのです。

 例えば、品質会議では、あえて異論を述べる役割を設けます。出荷可否を判断する部門や担当者に、製造ラインから独立した権限を与え、問題や判断を上位者に上げた人が不利にならない評価にします。声を上げることが性格の問題ではなく、与えられた役割として成立する状態をつくります。そこまでやって初めて、現場特有の3つの合理性にあらがうことができます。


図4:「空気を読まない」を仕組みとして組み込む[クリックで拡大] 出所:ウィズプロ

まとめ

 冒頭の問いに戻りましょう。一流の人材と潤沢なリソースを持つ企業でも品質問題が起きるのは、そこに悪い人がいるからではありません。最終顧客の顔が見えず、品質の定義がそろわず、現場独自の合理性が働いているからです。その結果、判断が現場に吸収されていきます。この構造は、企業規模を問いません。裏を返せば、施策も規模を問いません。必要なのは、現場の合理性そのものを責めることではなく、それが品質問題につながらない仕組みを構築することです。

 第1回では、品質問題を現場の「意識」の問題ではなく、組織として行うべき判断を現場が吸収してしまう「仕組み」の問題として捉えてきました。しかし、現場の仕組みを整えるだけで、品質問題がなくなるわけではありません。

 次回は視点を経営に移し、なぜ品質方針やQMSが現場で形骸化してしまうのか、その背景にある「経営と現場の断絶」を掘り下げます。品質を単なるコストや守りの活動として捉えるのではなく、事業価値につなげるための「採算志向」のQMSについて考えます。(次回に続く)

⇒その他の「品質問題を解決する「三位一体」アプローチ」の記事はこちら

著者プロフィール

吉田真人(よしだ まさと)
ウィズプロ

大阪大学大学院基礎工学研究科修了後、大手電子部品メーカーに18年間従事。製造現場での改善・管理、開発部門での新規プロセス・新製品開発、R&D部門での新規事業開発を経験。2023年に大手FA機器メーカーへ転じ、顧客企業のコンサルティングや事業企画を経て、現在は経営管理に従事している。

並行して自身が代表を務める法人を通じて、30社を超える企業・スタートアップを支援。経営戦略、品質・生産管理、製造革新、新規事業開発などを幅広く手掛ける。プロ人材サービス「ウィズプロ」では、製造業の品質・生産分野を中心に、制度設計から現場定着まで一貫して支援し、経営と現場をつなぐ取り組みを行っている。


ウィズプロとは

ウィズプロは、製造、モノづくり業界に特化したプロ人材と企業課題をつなぐ伴走支援型サービスです。三菱電機グループの商社であるRYODENのネットワークを背景に、現場実装まで見据えた支援を提供しています。

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