現場の“合理性”が不正を生む? 品質は意識ではなく「仕組み」で回すべき理由:品質問題を解決する「三位一体」アプローチ(1)(2/3 ページ)
優れた人材や設備をそろえ、品質保証部門を設けてISO 9001などの国際規格の認証を取得している企業でも品質不正は発生しています。ここには現場での「判断の吸収」が大きく関わっています。本連載では全3回にわたり、品質を「あるべき論」ではなく理論と構造の観点から捉え直します。第1回では現場に焦点を当て、品質について掘り下げます。
現場の合理性が働く3つの要因とは
1つ目は「ローカル合理性」です。人は判断に必要な情報を全て持っているわけではありません。それでも、手元の情報の範囲で、最も妥当と思える選択をするしかありません。たとえ全体像が見えていなくても、その場で判断を下さざるを得ないのです。
2つ目は「社会的望ましさバイアス」です。人は無意識のうちに、他者や組織から望ましいと評価される判断を選びやすい傾向があります。俗に言う「空気を読む」ということです。配慮、忖度(そんたく)、気配りなど呼び方はさまざまですが、得てして優秀な人ほど周囲の意図を深く読み取ります。
3つ目は「現場裁量のバッファー化」です。意思決定が遅かったり、手続きが複雑だったりするほど、現場は自らの裁量で問題を処理するようになります。問題を上げても止まるだけなら、あえて報告しません。その結果、現場が組織の意思決定の遅さを吸収する「緩衝材」の役割を担うようになります皮肉なことに、優秀な現場ほどこの吸収能力が高いのです。
この3つに共通するのは、当事者がそれぞれの局面で合理的にふるまっているという点です。しかも、その判断が1回では事故につながらないことが、事態を決定づけます。社会学者のダイアン・ヴォーンが「逸脱の常態化」と呼んだ現象です。1回目の「今回だけ」が、2回目には前例になり、3回目には手順になります。
こうして、たとえ悪意がなくとも、最終顧客の顔が見えない環境の中、品質の定義がそろわないまま、現場を動かす合理性の下で、品質問題は起こり得るのです。
これらのことを踏まえ、それぞれの問題に対応する「3つの施策」を紹介します。
対策1)自工程完結──手の届く場所に「お客さま」を置き直す
「お客さまを意識しろ」と言われても、現場から最終顧客の姿はなかなか見えません。ならば、日常的に接する相手を「お客さま」と捉え直せばよいのです。トヨタ自動車の佐々木眞一氏(後の副社長)の主導で社内に広まった取り組みとして「自工程完結」があります。これは、後工程が求める要求仕様を満たすアウトプットを、自工程の中でつくり込む考え方です。各各工程が自身の後工程の要求を満たし続ければ、その連鎖の先に最終顧客がいることになります。
では、後工程を「お客さま」に見立てて、何をすればよいのでしょうか。それは、後工程の期待に応えることです。後工程の期待は、以下の4つの段階を経て自分の仕事になります。
1.期待値(要求):後工程がやってほしいこと
2.明文化・契約(要求仕様):それを言葉にしたもの
3.出荷基準(設計仕様):自工程の判断基準に落とし込んだもの
4.品質管理:基準に向けて管理し、改善すること
これは、会社が顧客に対して日常的に行っていることと、本質的には同じです。しかし現場では、たいてい「2.明文化・契約」と「3.出荷基準」が抜けています。要求が言葉になっておらず、判断基準が示されていません。基準がなければ、人は「その場で最も妥当なこと」を選ぶしかありません。現場特有の3つの合理性がそのまま発動してしまいます。
これを打破するのがコミュニケーションです。これは“なれ合い”という意味ではありません。前工程と後工程が品質を共通言語として、要求と基準を突き合わせます。そこで初めて「健全な協働関係」が実現します。
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