量産プロセスで、完璧な量産(組み立て)と検査ができない理由:製品リコールを生む品質不良の原因と対策(6)(3/3 ページ)
設計品質と量産品質の構造を整理し、品質不良が生まれるメカニズムを体系的に考察する連載「製品リコールを生む品質不良の原因と対策」。第6回では、量産プロセスで行われる組み立てや検査に焦点を当て、作業者の習熟度や標準作業からの逸脱、治具の使い方、報酬制度などに起因する品質不良の発生要因と対策を解説する。
治具を正しく使わない
治具は、誰が作業しても同じ作業結果を得られるように、作業方法を統一化するための道具である。しかし、治具の使い方を誤ると、同じ品質不良が継続的に発生する可能性がある。
図6左の写真は、板金上の決められた位置にスポット溶接を行うための板状の治具である。この治具を板金の指定されたコーナーに突き当てることで、4カ所の溶接位置を決める。
しかし、治具を突き当てるコーナーを間違えると、溶接位置がずれてしまう。溶接後の部品を見れば、溶接位置がずれていることは一目瞭然であるが、それにもかかわらず、そのずれを問題だと認識しない作業者は、そのまま溶接作業を続けていた。
作業標準書に記載された治具の使い方を守るよう教育することは必要である。ただし、教育だけに頼ってはならない。治具を部品に固定するときは、その取り付け方によって治具の位置がずれない構造にする必要がある。
反対に、部品を治具に取り付ける場合も、その取り付け方によって部品の位置がずれてはならない。誤った位置や向きでは取り付けられないようにすることが、治具設計の基本である。
また、小さな治具は紛失することがある。小ロット生産では、1カ月の中でも生産を行わない期間があり、その間、治具を倉庫や棚に保管する。この保管時に、治具を紛失してしまうのだ。
こうした問題を防ぐには、整理整頓に関する社員教育に加え、治具の保管場所や管理方法を明確にすることも必要である。
検査条件を意図的に変更する
次は、テレビの組立メーカーで起きたエピソードだ。
組立工程の途中に、製品の電気的特性の良否を装置で判定する検査工程があった。装置に表示される値が、設定された閾値以下であれば製造不良と判断され、製品は前工程に戻されて修正される工程である。
この工場では、テレビの1日の生産台数が作業者の給与に影響していたため、作業者は製造不良が増えることを嫌った。その結果、製造不良が増えると、検査担当者が装置の閾値を勝手に変更し、不良と判定される製品を減らしていた。
製造ラインのリーダーがこの行為に気付き、閾値を元に戻した。しかし、しばらくすると再び変更されてしまう。そこで、閾値の変更にパスワードを設定し、検査担当者が勝手に変更できないようにした。
ところが、検査担当者はそのパスワードを解明し、再び閾値を変更してしまったという。まさにイタチごっこだった。
ここまでくると、通常の社員教育だけで解決するのは難しい。作業者のモチベーションが、品質の高い製品を作ることではなく、生産台数を増やして自分の給与を上げることに向いていたためである。
日本企業が海外で生産を行う場合、現地社員の品質に対するモチベーションを高めることは簡単ではない。
日本人的な考えでは、社員教育を通じてモチベーションを高め、社員自らが品質の高い製品を作ろうという意識を持つことを期待しがちだ。
筆者は、「品質改善について、日本本社から指示するのではなく、中国の関連会社の中国人社員に自発的に行動を起こしてもらいたいが、どうすればよいか?」という質問をよく受ける。しかし、日本企業が中国に進出して以来、長く続いてきたこの課題を解決するのは容易ではない。
その理由は、少なくとも筆者が関わった中国の製造現場では、品質の高い製品を作ること自体よりも、指示された作業をこなし、いかに多くの収入を得るかが、中国人作業者の主なモチベーションになっていたためである。これに関する詳細は本連載のテーマではないため、別の連載を参照してほしい。
外国人労働者の多い日本の組立メーカーや海外の組立メーカーにおいて重要なのは、作業者の意識や判断だけに品質を依存させないことである。誰が作業しても同じ結果になり、作業者の判断だけで勝手に作業方法や検査条件を変更できない製造ラインを構築しなければならない。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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