品質はどのように作られ、どのように確認されているのか:製品リコールを生む品質不良の原因と対策(1)(1/2 ページ)
重大製品事故は増加傾向にあり、その原因の多くは「製品起因」に分類される。しかし、設計や量産の現場では、品質を作り込み、確認する仕組みが整備されている。それにもかかわらず、なぜ重大事故やリコールは発生するのか。本連載では、設計品質と量産品質の構造を整理し、品質不良が生まれるメカニズムを体系的に考察する。
昨今のリコールについて、その根本原因と対策を考える
経済産業省が公開している「リコール情報」のページには、リコールを発表した製品の情報が掲載されている。その中には、「重大製品事故」を発生させた製品も含まれる。
重大製品事故とは「消費生活用製品安全法に基づき、消費生活用製品の使用に伴って生じた事故で、火災、死亡、治療期間が30日以上の負傷または疾病、後遺障害、一酸化炭素中毒のいずれかの被害が生じた事故」を意味する。製造/輸入事業者は、消費生活用製品安全法(以下、消安法)の第35条第1項に基づき、重大製品事故の発生を知った日を含めて10日以内に消費者庁へ報告しなければならない。
図1に示す通り、重大製品事故の件数は2024年が最多であり、増加傾向にある。
では、重大製品事故の原因はどこにあるのか。図2を見ると、「原因不明」と「調査中」を除けば、「製品起因」の比率が最も高いことが分かる。なお、製品起因以外の原因としては、長年の使用により部品や嵌合部などが設計で保証する期間を超えて劣化した「経年劣化」などが挙げられる。
こうした重大製品事故の発生を受け、経済産業省では必要に応じて事業者に対し、リコールなどの対応を促している。実際にリコールを実施した事業者数の推移を図3に示す。内訳の上段が重大製品事故を契機とするリコール、下段がそれ以外のリコールとなる。なお、リコールの中には事業者の自主判断により届け出されたものも含まれる。
突然動作しなくなったミラーレスカメラ
こうした統計データを眺めていると、品質不良は決して人ごとではないと感じる。
筆者は、過去に一眼レフのフィルムカメラを愛用していたカメラ好きである。しかし写真の撮り方にはあまり詳しくなく、「もっと広大で目の前に迫ってくる感じだったのだけど……」と、写真の出来上がりにがっかりすることがよくあった。
ところが、あるカメラがこの悩みを解決してくれた。15年ほど前に初めてそのカメラを購入し、旅行はもちろん仕事でも愛用した。グリップのラバーの接着が経年劣化で剥がれてしまうほど使い込んだ現在も、何の問題もなく動作する素晴らしいカメラであった。しかし、自分で接着し直したグリップのラバーの見栄えが悪く、そろそろ買い替えどきと考え、3年前にその後継モデルを購入した。
つい半年前の出来事である。充電と動作確認を行い、旅行に持っていった。ところが旅行先でカメラの電源を入れると、液晶パネルにメッセージが表示され、動かなかった。メッセージを頼りに対処方法をWebで検索し、何度も起動を試みたが、同じ表示が繰り返されるだけで、結局カメラは動作しなかった。
旅行から帰って修理センターに電話し、1年の保証期間は過ぎているものの、これまで落下や水没もなく、全くの自然故障である旨を伝えた。しかし、非常に高額な修理費を請求されたのだった。Web上の情報によると、故障の原因はソフトウェアのバグと考えられたが、修理担当者は「原因が分からず、メイン基板を交換したところ直った」と説明するだけだった。
基板に不良があったとすれば、そもそもの基板設計に問題があった場合と、基板の製造(実装)に問題があった場合が考えられる。設計に問題があったのであれば、なぜ設計過程で見つけられなかったのか。基板の製造に問題があったのであれば、なぜ製造過程で見つけられなかったのかと、元設計者である筆者は考える。さらに、基板の製造が外注であった場合は、基板メーカーの品質管理に問題があった可能性もあり得る。
このように、製品の品質不良の原因には多くのパターンが存在する。しかし、設計(設計データの作成)と、製造(部品の作製および製品の組み立て)から成る「製品の作製」作業の後には、必ず「品質の確認」作業がある。よって、それらが確実かつ適切に行われていれば、理論上は品質不良は発生しないはずなのである。では、なぜ品質不良が発生してしまうのか。本連載でその原因と対策について考えていく。
なお、リコールは基本的にユーザーとその財産に危害を加える可能性がある、安全性といわれる品質を欠いた製品を対象としている。したがって、前述の動作しないカメラはリコールの対象にはなりにくい。
本連載の前半では、まずリコールを生まないために必要な品質の考え方と仕組みを解説する。
品質の考え方と仕組み 〜「製品を作製」する作業〜
製品を企画し、市場で販売するまでの製品を作製する作業プロセスを簡略化すると、図4のようになる。
左の製品メーカーの設計者は、企画された仕様にのっとって製品を設計する。この設計プロセスでは、企画書や仕様書に記載された製品仕様を満たす機能性を考慮しながら設計を進めるのはもちろん、常に次の点にも配慮している。
- 安全性(ユーザーとその財産に危害を加えない)
- 信頼性(壊れにくい)
- 製造性(正しく組み立てやすい)
- サービス性(修理しやすい)
- コスト(目標コストを満たす)
これらを「設計品質」と呼び、さまざまなユーザーが使用する製品を量産する上で欠かせない5つの概念である。ただし、サービス性とコストは本連載のテーマに直結しないため、以降は扱わない。
右の組立メーカーは、組み立てに関する設計データにのっとって製品を組み立てる。この量産プロセスでは、組み立て作業者は常に正しく組み立てることを求められ、品質管理担当者は正しく組み立てやすい環境を整えるなど、製造性に配慮している。製造性とは、誰が組み立てても正しく組み立てやすいことであり、量産品質の一つだ。
中央の部品メーカーは、設計された部品の設計データにのっとって部品を作製する。この量産プロセスでは、部品作製の作業者は常に正確に製造することを求められ、品質管理担当者は正確に製造しやすい環境を整えるなど、製造性に配慮している。この製造性とは、誰が製造しても正しく製造しやすいことであり、量産品質の一つである。部品メーカーと組立メーカーの量産品質に対する考え方は似通っているため、本連載では組立メーカーについてのみ解説する。
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